トランプ大統領の政策について(関税と為替の矛盾)

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大統領就任前から「パナマやグリーンランドは米国の物だ」発言や「関税政策」「就任後24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる」等の発言で世界の首脳を混乱させ続けるトランプ大統領の話です。

アメリカ国内のLGBTなど細かい政策については、日本人には関係ないので、特に評しません。

しかし、関税政策や安全保障政策に関しては、日本や西側同盟国全体に重大な影響を与えますから、無視できません。

トランプ大統領の政策で気になるのは、主に「対ロシア外交」あるいは「ウクライナ支援」などの安全保障外交と、関税政策でしょう。

安全保障外交

まず、安全保障外交です。

先のゼレンスキー大統領との資源外交に関して。 ウクライナの安全保障を確約しない形での鉱床開発契約へ合意を要求したことで、ゼレンスキー大統領を怒らせ、「交渉決裂か」と多くの人が思いました。

トランプ氏とゼレンスキー氏 激しい口論 合意至らず

翌日には米国のウクライナ支援を停止して実質「脅迫」に近い形でゼレンスキー大統領を屈服させ、鉱床開発契約に前向きな態度を取らせることに成功したようです。

トランプ大統領 ウクライナ軍事支援 一時停止を指示

【施政方針演説】トランプ大統領 “前政権の政策転換 関税など推進”

(ゼレンスキー大統領から書簡“いつでも署名する用意” のセクションを参照)

まず、このやり方は強引すぎてとても肯定する気にはなれないし、西側同盟国全体の非難を買うのは当然と言えるでしょう。

ただ、以前の記事にも書きましたように、ウクライナ戦争支援を始めとして、西側安全保障の負担がアメリカに偏りすぎているのは、事実です。 ウクライナ戦争支援の中心は、地理的に考えても欧州であるべきで、米国の支援は欧州の次の補助的支援であるべきなのです。

トランプ大統領の手段は強引すぎて、各国指導者の外交判断を誤らせてしまうリスクを内包している危険な態度と思えます。
しかし、同盟国に対し安全保障の均等な負担を求めるのは、米国として当然の要求でもあると思います。

ただ、ロシアに一方的に侵略されているウクライナには何の落ち度も無いので、負担の不均衡の議論は、欧州や日本・韓国・台湾に直接要求すべきでしょう。
個人的に、欧米同盟国間の負担の不均衡のしわ寄せが、どうしてウクライナに向かうのか、理不尽に思えます。

今後の同盟国の安全保障負担

この顛末を見る限り、今後の欧州の安全保障負担はEUを中心とした欧州自身が最大の負担を背負う形にシフトするでしょう。

米国の欧州への支援規模は、無くならないまでも相対的縮小に向かうと思います。
既にEUはヨーロッパの防衛力を強化するため、最大で8000億ユーロの資金を投入する計画を発表しています。

ヨーロッパの防衛力強化へ 最大125兆円規模の計画発表 EU

東アジアにおいても、米の国防次官が公聴会で、日本と台湾の防衛負担の拡大の必要性を主張しました。
米 国防次官候補 公聴会出席“日本の防衛費GDPの3%にすべき”

トランプ政権の目的は、安全保障と貿易の不均衡の是正であると考えれば、当然、欧州だけではなく日本など東アジア諸国の防衛負担も米国並の水準を要求してくるでしょう。
米国の軍事費は GDP比 3% を超えています。

長期的な防衛力の拡大は、避けられないと思います。 財政負担と人手不足などの影響が生じます。

関税政策

トランプ大統領の関税政策については、無視できない経済政策的矛盾点があります。

アメリカは元々貿易赤字が大きく、国内製造業が衰退しています。
トランプ大統領の意図としては、関税政策により国内製造業を復活させ、国内雇用を拡大して米国民の所得や格差の問題を解決したいと考えているのだと推測できます。
おそらく「輸入製造物に高い関税をかけて、製造業の国内競争力を高めて、国内製造業を育てよう」という考えと思われます。

私は、関税政策で国内産業が育つという考え方は、上手く行かないと考えています。
理由としては、消費者は必要な付加価値を持つ物なら価格が多少高くても買うからです。
日本の高性能鉄鋼は他の国には作れません。
HEVやPHEVも日本の自動車メーカーにしか作れないでしょう。

逆にスマホやOSやDBMSなどのソフトウェアなどは、日本では作れないので、これらに関税を掛けても日本人は買います。
実際、円安で米国製ソフトウェア価格が高騰しても日本人は、それらを購入し続けています。
高性能鉄鋼でもHEVでも同様ではないでしょうか。

小麦や米や石油やガスなど、どこから買ってもほぼ同じ物なら、関税障壁は効果がありますが、製造業やソフトウエアなどでは単純に関税障壁は通用しないと思っています。
「米国の造船業が衰退したのは関税で保護されて競争力を失ったから」という主張もあります。
「世界最強」誇った米国の造船業と海軍が崩れる…韓国にはチャンス

経済政策の矛盾

トランプ政権の関税政策には、経済政策としての矛盾があります。
大前提として現在のアメリカは高インフレに苦しむ状況にある事を忘れてはいけません。

米国のインフレの原因は、バイデン政権自体にパンデミック対策としての財政出動をやり過ぎたからと思われます。

パンデミックで労働者が働けなくなり、生活保障と感染拡大を防ぐために、先進国全体で国民への給付金や「自宅に籠もって外出を控える」事が推奨されたことにより、需給バランスが狂い極端なインフレが発生しました。
欧米ではそのインフレ率が非常に高くなり、対策として中央銀行による金融引締めが実施されました。 米国では今でも高金利を維持しており、金融引締めを終わらせる目処が立っていません。

高インフレは中央銀行の金融引締めの要因となり、為替のドル高を招きます。
関税政策で輸入品の価格をつり上げても、ドル高になると輸入品の価格は下落します。
関税を引き上げても、高インフレにしてしまっては、経済政策として相殺してしまうことになります。

高インフレとは、有効需要が潜在供給能力を大きく上回っている状況なので、「需要を減らす」か「供給を増やす」政策を取る必要があります。

「需要を減らす」のが金融引締めになります。
金融を引締めてもインフレが収まらないのなら、他の手段を加える必要があります。
考えられる政策手段は、 「緊縮財政による政府需要縮小」 「増税による消費の引締め」 「自由貿易拡大による供給能力拡大」 「規制緩和による供給能力拡大」 というのが代表的な方法です。

これらをトランプ大統領の政策と比較してみると、
「関税率引き上げ」は、「増税による消費の引締め」と「緊縮財政による政府需要縮小」の両方に当てはまります。
「軍縮」は、「緊縮財政による政府需要縮小」に当てはまります。

これらは、「インフレ抑制」に即した正しい選択ということになります。

しかし、逆に 「関税率引き上げ」は、貿易抑制に繋がり「自由貿易拡大による供給能力拡大」とは逆行していて、逆にインフレ率を引き上げる政策です。
「不法移民排斥」は、法的には正しいかも知れませんが、人手不足を加速して賃金上昇を招き、インフレ率を引き上げてしまいます。

鉄鋼やアルミニウムの輸入に25%の関税をかけるとなると、自動車や船・飛行機、その他の兵器や機械製品全般に価格上昇を招くでしょう。
自動車に対しても関税をかけるという噂もあります。

これらの政策は、どう見ても高インフレを悪化させます。

つまり、トランプ政権はインフレ抑制政策の視点から見て、アクセルとブレーキを同時に踏んでいる事になり、経済政策として矛盾を内包していることになります。

(関税に関しては、並行して労働者の税負担を軽減する政策を実施するようなので、全体ではプラマイゼロになる可能性もあります。詳細は不明です)
(国内の石油と天然ガスの開発投資によるエネルギー価格の引き下げも検討しており、これはインフレ抑制に働きます)

事実無根の批判も出てきた

日本に対して「中国とともに日本が通貨安を誘導してきたと主張し、こうした問題を解決する手段として関税の発動が必要になる」という主張をしたそうです。

トランプ大統領 “日本と中国 通貨安を誘導 解決に関税必要”

日本政府は即座に反論しました。
通貨安政策「取っていない」と加藤財務相、トランプ発言巡り政府見解

日本ではデフレ脱却のために、アベノミクスを実施しており、金融緩和と財政出動を11年に渡って実施してきました。
インフレ目標2%の長期的安定的達成はまだなので、金融緩和は継続しています。

一方、アメリカは先の説明のように、パンデミックで過剰な財政出動を実施した為に高インフレに悩んでいます。

インフレ率を下げるためにFRBは高金利政策を実施してインフレ抑制を継続しています。
日本は、金融緩和で通貨量が増加し、米国は金融引締めで通貨量が減る(増加率が少ない)状態にあるわけです。
現在の円安ドル高は、この日米の金利差と将来の両国金融政策への予測から生じているものです。

日本は政策金利を少しずつ引き上げているので、どちらかと言えばFRBの金融引締めの影響の方が大きいでしょう。
言い換えると、「円安ではなく、ドル高である」とも言えると思います。

日本では、何度か円安ドル高が進行しすぎて、輸入インフレが深刻化したので、対策として為替介入で「円高誘導」をしています。
トランプ氏は「日本が通貨安を誘導した」と主張しましたが、事実は全くの逆であります。

まず、円安ドル高の原因は、米国のインフレ対策に寄る部分が大きいのと、ドル高を抑制する為に日本は円高誘導をしているという、二点が重要です。

日本政府は、円安による被害を作っているのは、米国側である事ははっきり主張した方が良いでしょう。
ここは、はっきり抗議した方が良いです。
事実無根の冤罪でしかありません。

さらにドル高になり為替批判を繰り返すかも?

トランプ大統領の政策は、先に説明したように、インフレを加速する可能性があり、その場合はFRBがまた金利を引き上げることになります。
そうなると、日米金利差はさらに拡大して円安ドル高が加速することになります。

現在のトランプ大統領の不正確な為替認識だと、また再び日本に「不正な為替操作国」のレッテルを貼ってくる可能性もあると思います。
そのとき日本政府は、しっかり抗議しなければなりません。冤罪ですから。

トランプ政権の目的は不均衡是正

トランプ大統領の施政方針演説を聞いても、トランプ政権の目的は同盟国や貿易相手国との不均衡の是正にある事は明白です。

関税に関しては「相互主義」で「相手国が米国にかけている関税と同じ関税をかける」としています。 ウクライナ支援に関しては、「米国が多額のウクライナ支援をしているのに、欧州はロシアからエネルギーを購入している」と欧州の自己矛盾と支援の不足を批判しています。
たしかにドイツなどは、ウクライナ戦争中に原発を廃止して天然ガスをロシアから購入しています。
さっさと原発投資を拡大してロシアの燃料依存から脱却すべきだったでしょう。

日本もサハリン2から天然ガスを輸入しているので、この点は米国の批判を免れないかも知れません。

トランプ大統領は製造業の復活を目指しているようなので、鉄鋼や自動車の関税はさけられないかも知れません。
日本はこれらの関税を掛けていないので、日本から対米関税かけても文句は言われないかも知れませんが、日本にメリットは無いですね。

カナダとメキシコの25%関税は、麻薬と不法移民の流入阻止に両国が非協力的である事への報復手段のようです。 日本に同じ論理での関税制裁をかけられることは無いでしょう。別の論理なら有り得ますが。

中国に対しての20%関税は、ほぼ貿易不均衡の是正だと思いますが経済制裁の意味もあるでしょう。 解除されることは無いと思います。

日本に対する関税政策がどのような内容になるのか、今のところ不透明です。

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