石破政権と国民民主についての雑感

時事

衆院選で自公が大敗して、国民民主と立憲民主が躍進しました。 聞くところによると、自公と維新は百万票単位で票を減らしたそうで、その票は主に国民民主と新興政党に向かったそうです。

立憲民主への得票は7万票しか増えていないそうで、立憲民主は真に躍進したとは言えないようです。 自公と維新が議席を減らしたところに、立憲が収まったというところでしょう。

そういう意味で、今回の衆院選の勝者は国民民主党だけと言っても過言ではないと思います。

飛沫政党が多少躍進していますが、私にはそれらが長続きするとは思えません。

少数与党では強行採決は不可能

安倍政権以降、日本の国会では自公が安定多数以上の議席を獲得し続け、国会運営も与党の内輪だけで、合意に至れば国会で議決が通る、与党にとって非常に楽な国会運営が行われてきました。

アベノミクスに代表されるように、自公の政策は比較的正当性の高い政策を実施してきたせいか、左翼勢力の反対以外に与党の政策に対する反発は盛り上がらず、安倍政権・菅政権・岸田政権と安定多数の議席を前提とした国会運営が成功してきました。

実質的には強行採決をしていたようなものですが、政策内容に対する反発は大きくないので、国民もその状況を問題視することは無かったと思います。

私も安倍政権・菅政権・岸田政権の全ての政策を支持していましたから、安定多数でスムーズに国会の議決が通る状況は好ましい状況だったと思っていましたし、今でも当時の状況では、それが良かったと思っています。

しかし、与党の自公だけで全ての法案を通してしまえる国会運営は、本来の国会のあり方としては、異常な状況とも言えます。

これまでは全ての政策が与党の中だけで議論され、国会は事実上の強行採決でスルーされる形で、政策が進められてきましたが、本来は全ての政策は国会で議論して進めるのが正攻法であります。

今回の衆院選で与党自公が大敗し過半数割れしながらも、与党の座は維持できました。 自公は少数与党での運営を余儀なくされます。

現代の国会では、自公と今回躍進した国民民主の議席を合わせて、過半数以上になります。 当初自公は国民民主を連立与党に引き入れる交渉を国民民主に行ったようですが、国民民主は断ったようです。

これまで、自公と国民民主の間で、基礎控除枠の引き上げについて激しい議論が戦わされていました。

最終的には、自公と国民民主の間で「基礎控除枠の引き上げ」を行うところだけ合意に至ったようです。

国民民主の要求する「基礎控除枠の178万円への引き上げ」には合意していません。たぶん130~140万円ぐらいのところで手を打つのではないでしょうか。

現在の国会運営は正攻法

現在の少数与党では与党の中だけで、法案を通せないので、以前のように与党だけで強行採決のようなマネができません。

最低限、国民民主の合意が必要となり、その国民民主は連立への参加を拒否していますから、与党は必然的に国会で国民民主との合意を目指して審議をするしか、法案を通す術がありません。

今の自公と国民民主の国会運営は、正攻法以外の何物でも無いと思います。

これが本来の国会運営のあり方でしょう。

与党大敗の結果として、少数与党と野党との間で、国会論戦による政策決定という「当たり前の政策運営」が実現したことになります。

意志決定の速度は遅くなりますから、デフレ脱却を早期に進めなければならなかった安倍政権や、パンデミック対策を緊急に進めなければならなかった菅政権、ウクライナ戦争対応を緊急に進める必要のあった岸田政権のように、非常事態の政権においては、安定多数の与党体制の方が良かったとは、思います。

しかし、私には永遠に安定多数の与党体制を継続するのが良いとも思えないのですね。

今の少数与党の石破政権は、全ての政策を国会審議を通してしか、進める事ができない政権です。

野党、特に国民民主を無視して政策遂行することは、不可能です。

これは国会として「当たり前」の姿であり、正常な国会運営のあり方です。

ある意味、「怪我の功名」とも言えるのでは無いでしょうか。

石破政権は「自民党政治」になっている

当初、石破茂さんの政策は、緊縮財政的な主張をしていたり、「アジア版NATO」のような非現実的安全保障論を語っていたり、選択的夫婦別姓に肯定的だったり、マイナ保険証に否定的であったり、その政策に大きく不安を感じさせる人物でした。

しかし、総理の座に着いてしまうと、過去に主張していた政策は全て撤回され、「日銀の独立性は尊重する」「必要な財政出動はする」「選択的夫婦別姓はウヤムヤ」「アジア版NATOは消滅」「マイナ保険証は予定通り進める」という結果になり、岸田政権とあまり変わらない政権になりそうな雲行きです。

正直「あの総裁選は何だったのか」と思ってしまう状況で、「あまりにもゴールポストをひっくり返しすぎだろう」と思いますが、政策的には、「大きく間違った選択はしていない」とも思います。

政治家の何人かがこの状況を解説していますが、総理大臣というものは、大統領のように直接選挙で選ばれるわけでもなく、それほど大きな権力は持っていないそうです。 総理大臣の政策は、結局国会の与党の進める政策に添った物にならざる得ず、与党の政策から大きく外れた政策を進めることは不可能だそうです。 安倍政権のときは、自民党内の安部派の力を制御することができていたので、安部さんの意志で国会をコントロールできていたから、大きな権力を行使できていたようです。 菅政権も安部派の支援を受けていますし、岸田政権も政策的には安部派と協調しながら政策決定をしています。

岸田政権は防衛増税を進めようとしたとき安部派と衝突して、数ヶ月の議論の末、防衛増税は実施しませんでした。

与党の政策への影響力の大きさが分かります。

現在の石破政権への自公の影響力は大きいのでしょう。動くゴールポストは自公からの影響の結果だと思います。 つまり、石破政権も安倍政権以降の「自民党政治」であることに変わりは無いということになります。

重要なのは国民民主の意向

石破政権が自民党政治の延長にすぎないのなら、石破総理自身の意向はそれほど重要では無いのかもしれません。

むしろ、先に説明したように現在の自民党と公明党は少数与党であり、最低限「国民民主党との合意」が無ければ法案一つ通すことができない状況にあるのだから、国民民主党の意向の方が政策遂行上は「重要」なのではないでしょうか。

控除枠引き上げや減税政策において、国民民主と自公は協議を重ね、25年の補正予算の年内議決を目指しているようですが、この予算は国会議決を通りそうな雲行きに見えます。

三党協議で「年収103万円の壁」について所得税の控除額を引き上げる制度設計など具体的な検討を進めるそうなので、国民民主の意向を最低限は反映しています。

これが合意に至るなら、自公は国民民主と国会協議を重ねながら政策運営する能力があるということになり、ゆっくりですが、政策を遂行できることになります。

私は、石破政権を支持する気にはなれないのですが、今のところ自公政権と国民民主の協調関係は、上手く回っているように見えます。

しばらく、石破政権に対するネガティブな発信は控えて、政治を静観しようと思います。

以前も言いましたが、私は高市早苗さんや安部派に代表される積極財政派の政治家を支持していた人間で、先の衆院選でも自民党に投票しています。

国民民主党の動きを評価していますが、国民民主党の支持者ではありません。

衆院選の真の敗者は財務省?

SNS投稿の中で「今回の衆院選の真の敗者は財務省だ」という意見が流れてきて、「一理あるな」と思いました。

今回の補正予算を巡る自公と国民民主との議論でも、財務省の「ご説明」が報道され、「基礎控除引き上げの財源に7兆円必要」という、かなりトンチンカンな説明が報道されています。

基礎控除引き上げはブラケットクリープ現象による「自動増税」を止める政策で、実質的には「減税政策」ではありません。「インフレ調整」と呼ぶのが適切でしょう。 日本は30年もデフレが続いたので、インフレ調整を長く必要としませんでしたが、これから2%のインフレ経済になるので、3年とか5年ごとに定期的に基礎控除枠や累進課税枠や社会保険枠などの「枠の引き上げ」が必要になります。 これはインフレ経済では必須の政策なので、実施しないと貨幣価値下落と共に自動的に増税されてしまいます。 ブラケットクリープ現象には「ステルス増税」なんて呼び名もあるぐらいです。

「7兆円の財源が必要」という財務省の説明は、「インフレで7兆円自動で増税できるはずだったのに、それができなくなる」と言っているのと同じ事です。

ハッキリ言ってバカバカしい話です。 財務省の役割は国庫の金庫番なので、財務省設置法的な役割としては正しいのでしょうが、国家経済にはマイナスの行為です。

この一連の流れは、国民民主党を財務省がコントロールできないことの表れです。

自民党に関しては「収支報告書不記載の問題」で現在、安部派を抑圧しているので、財務省にとってコントロールし易い状況にあります。 しかし、そのコントロールしやすい自民党が衆院選で大敗して、連立にも参加しない国民民主党がキャスティングボードを握る状況になってしまいました。 国民民主党は以前からマクロ経済に明るく積極財政派の政策提言をしていた政党なので、財務省の「ご説明」を真に受ける政党ではありません。 つまり、財務省は自公が少数与党になったことにより、国会をコントロールする主導権を失ってしまったと言えます。

これも「怪我の功名」と言えるのではないでしょうか。

この状況、国民には悪くないのでは?

石破政権が「動くゴールポスト」で、事実上の自民党政治にすぎない点。

自公が少数与党で国会論戦により、国民民主の合意が無ければ政策を進められない点。

国民民主がキャスティングボードを握り、財務省が国民民主をコントロールできない点。

この三つの状況は、国民にとってそんなに悪くない状況だと思うのは、私だけでしょうか?

すべて「偶然の産物」にすぎませんが。

デフレ脱却はほぼ確実

現在、政治言論を語る人々の中では、自公が積極財政派の安部派を抑圧している点や、元々緊縮派だった石破さんが政権を取ったことなどを受けて、政治に対してネガティブな発言が多くなっている状況ですが、私は日本経済のデフレ脱却はほぼ確実な見通しだと思っています。

2024年4-6月期の内閣府需給ギャップはマイナス0.6ですが、この数字は2023年のコストプッシュインフレの値を引きずっているだけで、私は需給ギャップは既にプラス転換していると思います。 2024年7-9月期の需給ギャップはまだ出ていませんが、7-9月期の名目GDPは年率換算で610兆円を超えています。 消費もゆっくりですが、確実に伸びており、仮にこのまま政府が何もしなくても、2025年には需給ギャップはプラス転換して、完全に需要超過・供給不足のインフレ経済になると思っています。

それに加えて、今回の補正予算で13.9兆円の財政出動をする方向で、自公と国民民主が協議することで合意しており、もし順調に合意に至れば、この財政出動が需要拡大に反映することになります。

私は、日本のインフレ率が少しオーバーシュートするかもしれないと思っています。 少しぐらいオーバーシュートしても日銀の金利政策で調整できるので、問題は無いと思いますが、もうデフレ脱却は確実といっても間違いはないでしょう。

予想インフレ率はまだ1%代後半で、インフレ目標の長期的安定的達成は、まだまだですが、短期的一時的インフレ目標達成の状態に入り、その後は2%のインフレを維持する政策が中心になると思います。

過去の安倍政権・菅政権・岸田政権の積み上げがあり、さらに13.9兆円の補正予算が出るので、経済の面でもあまり悪くない状況になりそうです。

とりあえず石破政権+国民民主の様子を見る

そういうわけで、石破政権と国民民主の協議で政策が決まる今の政権運営は、当初悲観的に予想していたほど、悪くない状況に見えます。 なので、先に言ったように、私は石破政権を支持していませんが、石破政権に対するネガティブな発信は控えて、自公と国民民主の動きを静観しようと思います。

以上、石破政権と国民民主の政治についての雑感でした。

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