自民党総裁選で一部話題になっている選択的夫婦別姓について、改めて関連要素である戸籍制度と選択的夫婦別姓案について、生成AIに質問して全体の事実関係を確認してみました。
私自身、知識や認識に偏りがあるかも知れないと思いまして、多くの情報を広く網羅している生成AIに解説してもらえば、政治的偏りの無い事実確認ができるだろうと考えたからです。
実際、生成AIにいろいろ解説してもらって、戸籍制度や選択的夫婦別姓について持っていた認識が変わりました。
ただ、政治的な結論は結局変わりませんでした。
当初、私は「選択的夫婦別姓論は日本の戸籍制度の解体を狙う政治勢力によって扇動された人々の主張が不規則に拡大したもので、日本の体制維持の脅威になる政策論だ」と真面目に考えていました。
しかし、生成AIに質問を繰り返して行く内に、まず「戸籍制度は簡単に解体できる性質のものではなく、実質的に解体を心配する必要は無い」という認識になりました。
また、「選択的夫婦別姓論者は、計画的に政治活動できるほど統率の取れた勢力ではなく、むしろ具体的政策を統一する事もできないぐらい、纏まりの無いバラバラの勢力にすぎない」という認識に至りました。
その結果、私の政治的立場は、「選択的夫婦別姓よりは旧姓の通称使用を可能にする方が現実的な選択だ」という点では変わりませんでした。
取りあえず、ここで事実関係を整理したいと思います。
まずは、戸籍制度から。
戸籍制度とは
戸籍制度の基本的役割を教科書的に記述すると以下のようになります。
「個人の身分関係を公的に証明する」 「出生、婚姻、死亡、養子縁組などの重要な身分事項を記録」 「行政手続きや法的手続きにおいて身分を証明する」
これだけ読むと、「戸籍はただの身分証明書」と思うと思います。
しかし、実際はそんなに単純な制度ではありません。
戸籍制度は「家族」を定義する制度です。 「家族」と言ってしまうと、住民基本台帳法で定められた「世帯」と混同してしまうので、ここでは「親族」と呼びます。
日本における親族(家族)は、「国家の統治システムの基礎」として明治時代に作られました。 戸籍制度は明治時代に大日本帝国設立時に作られた近代国家のシステムです。
この戦前の戸籍制度で定められた親族(家族)は、戸主が家族の統制権と責任を担う共同体として機能しています。 現代のように結婚の度に新戸籍は作られず、結婚は妻が夫の所属する戸籍に移籍する行為でした。一つの戸籍に先祖代々何世代もの人々が所属することになります。 戦前の戸籍で定められた親族は、このように大きな集団であり、親族の教育と扶養と社会保障に責任を持つ事が法で定められていたそうです。 親族のリーダーであると戸主は、親族の教育と扶養と社会保障を担う義務があり、義務を果たさなければ処罰されていたようです。
つまり、日本における戸籍で定められた親族とは、日本の統治機構の最も基礎の部分を形成する社会システムなのです。
政府、都道府県、市区町村の下に位置づけられる第4の統治システムが、「親族」であると言えるでしょう。
この戸籍制度は第二次世界大戦で日本が敗戦するまで継続し、戦後はGHQの指導の影響で、現在の個人主義的な戸籍制度に改変されました。
ただ、戸籍制度は現在も育児・教育と親族の扶養において、重要な社会保障を中心とした統治システムとして機能しています。
社会保障の責任の多くが、市区町村や都道府県へ移されましたが、以前として親族の育児や扶養の責任は重く、親族(家族)が政府、都道府県、市区町村の下に位置づけられる第4の統治システムとしての役割を果たしている点では、変わっていません。 これは近代国家日本の設立時からの、日本の統治システムの特徴なので、細部の修正ならともかく、戸籍制度自体を容易に改変できるものではありません。
日本と異なり欧米社会は、近代国家設立の時点でキリスト教的価値観と個人主義に基づき社会を構築しているので、統治システムの中に「家族」が組み込まれていません。
欧米社会において、家族は恋愛や友人との交友と同じで、個人の趣味で自由に形成するものであり、社会システムの維持運営とは切り離されたもののようです。
欧米では社会保障や教育などの責任は行政統治機構の責任ですから、その分だけ社会保障や教育などの公的負担が大きくなります。 実際、家族が育児教育介護扶養などの主な責任を担う体制である日本は、欧米に比べてそれらの公的支出が抑制されています。 それが良いか悪いかは議論の分かれる点だと思いますが、事実として日本の親族(家族)は育児教育社会保障を中心とした重要な社会システムの基礎として機能しているのです。
その社会システムの基礎を定義する戸籍制度は、容易には解体できないでしょう。
仮に戸籍制度を解体するとすると、それまで家族が担ってきた育児教育介護扶養などの負担を、行政システムが代わりに担わなければなりません。 これは非常に大がかりな行政と財政の改革が必要です。 大変な財政拡大になることでしょう。 公務員をどれほど増やさなければならないのか想像もできません。 日本は人口比で見ると公務員の少ない国です。 公務員が少なくても済んでいる理由の一つが、戸籍制度で定められた親族(家族)システムが存在であると思います。
政治的に戸籍制度を解体しようとしている勢力が存在する事は否定しませんが、以上の理由から戸籍制度の解体は現実的な話ではないことが理解できると思います。 「戸籍制度の解体など、非現実的な夢物語」と言っても良いと思います。 戸籍制度の解体を過剰に心配する必要は無いでしょう。
なお、日本の親族を中心とした社会保障には、「家族扶養から零れた人々」を救済する上で欠陥がある事は事実です。 親族の枠組みの外側に、行政から直接、社会保障や福祉や再分配する仕組みを構築して、親族システムの欠点を補う必要がある事は否定しません。
しかし、親族システムの欠点は、親族システムを解体しなくても補えるはずです。
選択的夫婦別姓論の内容
選択的夫婦別姓論についても生成AIに内容を確認してみました。
選択的夫婦別姓案には、どのような種類がありますか(生成AIが解説)
生成AIの回答を見て分かるように、選択的夫婦別姓の具体的な改正案は、「戸籍の編製方法の変更」「複数戸籍方式」「現行戸籍制度の維持と修正」「戸籍と氏の分離」「電子化による柔軟な管理」と大きく五種類の政策案があり、一つに統一されていません。 「子供の氏をどうするのか」という点においても、「婚姻時に夫婦どちらかの氏に決定する」「子供が生まれる度に夫婦で協議し、合意できないときは裁判所に判定してもらう」という代表的な案のレベルでも分裂しています。 細かいものなら「複合姓を採用する」「兄弟姉妹でも異なる氏を名乗ることができる」など、統治システムに採用する事を真面目に考えているとは思えない物も、意見が収束することなく存続しています。 政府や統治システムの担い手の視点から見れば、最低限「子供の氏をどうするのか」「戸籍制度をどのように改正するのか」の部分は、明確にして貰わなければとても制度として採用できないことは、誰でも理解できると思います。
「子供の氏をどうするのか」は、戸籍制度を左右する重要な問題であり、先に説明したように日本の統治システムでは、戸籍制度と親族システムは、重要な社会保障システムとして機能しています。 不明瞭な制度案では、そもそも採用する事が不可能なのです。
反対意見の方も生成AIに聞いてみました。
「家族の絆の弱体化」「子どもへの影響」「戸籍制度への影響」「社会的混乱」などの内容を、先の複数の選択的夫婦別姓案と並べて読んで見ると、なぜ反対派が反発するのかなんとなく分かります。
戸籍制度を守る側から見ると、子供の氏は「両親が話し合って決める案」「兄弟姉妹でも異なる氏を名乗ることができる」「複合姓」などの主張が並立して、戸籍制度でも「個人単位の戸籍」「夫と妻がそれぞれ別の戸籍」「現行戸籍制度の維持と修正」「戸籍と氏の分離」「電子化による柔軟な管理」とバラバラの主張がやはり並立して、国に法改正を迫っているわけです。
これを「聞く側の立場」で考えてみてください。
「デタラメに戸籍制度を破壊しようとしているのではないか」と受け取られても当然だと思います。 選択的夫婦別姓の主張が混乱しているのだから「社会的混乱」や「戸籍制度への影響」や「家族の絆の弱体化」「子どもへの影響」が心配になるのは当然です。 夫婦で子供の氏を巡ってケンカする度に裁判所の世話になる制度が制定されたら、「子どもへの影響」や「社会的混乱」が気になるのは普通のことだと思います。
選択的夫婦別姓推進派がまずやるべき事は、選択的夫婦別姓推進派の主張の「統率」です。 まず、選択的夫婦別姓案を現実的な一つの法案に纏めて、選択的夫婦別姓推進派全体の合意を取り付ける事です。 法案は民法だけではなく、戸籍法の改正案も無ければダメです。「戸籍制度への影響」を心配している人々は納得できませんから。
これができなければ、戸籍制度を守る側は、主張を聞き入れる事はできないでしょう。
主張の内容が一つに統一されていないのですから。
同性婚案も同様
同性婚案についても生成AIに聞いてみました。
こちらも選択的夫婦別姓論と同様に具体的な制度改正案がバラバラです。 選択的夫婦別姓推進派よりもっとバラバラで統一性に欠けています。
主張の中に結婚制度廃止論者や重婚容認論者など、極端な主張があるのは、同性婚推進派の議論の積み重ねが不十分であることの現れだと思います。
議論の積み重ねが進んで行くと、結婚制度廃止論や重婚容認論のような実現不可能と思われるような極論はメインストリームから排除されるはずです。
そもそも同性婚論のメインストリームはどのような内容なのでしようか。戸籍制度を維持する視点からは、具体的な「制度」が見えてきません。
また、選択的夫婦別姓論と同様に具体的に採用可能な法案を作る段階までたどり着いていない状態なので、政府や戸籍制度守る側としては、同性婚案を聞き、受け止めるのは、現状では無理だと思います。
はっきり言って、戸籍法がどうこうという段階ではありません。
選択的夫婦別姓論も同性婚案も、戸籍制度の改正に対する認識が「甘い」と言わざる得ないのです。
戸籍制度の改正は可能なのか?
今度は、仮に選択的夫婦別姓案が現実的な法案として完成したと仮定した場合、戸籍制度の改正は可能なのかという点で考えてみたいと思います。
戸籍制度の「氏」と家族管理と社会保障と海外制度について、生成AIに質問した
まず、情報システムの視点で見ると、既にデジタル化されている戸籍システムは、一つの戸籍に複数の氏を登録管理する事は可能のようです。
制度的にも「離婚した人」が元の戸籍に戻ったとき、婚姻時の氏を名乗り続ける制度は既に運用されており、一つの戸籍に複数の氏を保持する仕組みは既に存在します。
他に国際結婚で海外の氏を管理する仕組みもあるので、制度的には運用可能と言えます。
夫婦別姓に関しては、制度やITシステムの問題ではなく、文化的・慣習的問題として考えるべき問題で、システム上の障害は特に無いと言えます。
ただ、システム論的障害はなくても、システム改修のコストの問題はあります。
「戸籍制度変更の法的影響範囲(生成AIの解説)」の記事を読むと、戸籍制度が多くの法律で参照されており、戸籍法改正の影響範囲が大きいことが理解できると思います。
影響は戸籍法をどのように変更するかにより、その影響範囲は変わってきますが、これを読むと戸籍制度解体がほとんど不可能に思えてくるはずです。 特に国籍法の部分は重要で、戸籍謄本は日本国民と外国人を区別する基準として機能しており、戸籍制度が無くなると、外国人を区別する事に支障が出るでしょう。 一部の移民国家推進論者がなぜ戸籍制度を廃止しようとするのか、理解できます。
コストの話に戻りますが、このように影響範囲の広い戸籍制度を改正すると、それに紐付く全ての法律も改正が必要で、さらにそれらの法律改正の影響を受ける全てのITシステムも改修が必要になります。 戸籍制度改正が膨大なコスト負担になる事は想像できるはずです。
選択的夫婦別姓推進派の主張する婚姻による氏の変更の、不便の問題は、現在政府が進めている「旧姓の通称使用」を可能にする制度で大半が解消するはずです。 旧姓の通称使用なら、戸籍制度は変更されませんから、当然戸籍制度の改修コストは発生しません。
生成AIの説明する「選択的夫婦別姓でのみ対応できる事項」というのも、致命的な問題とは思えません。 現実生活では「旧姓の通称使用」で解決する問題に思えます。
もちろん、異論のある人は多いでしょうが、大半の人々は「旧姓の通称使用」で問題が解決してしまうのではないでしょうか。
「旧姓の通称使用」は既に一部採用されており、大半の制度化は二年もすれば完了してしまうのではないでしょうか。
選択的夫婦別姓案は「子供の氏をどうするか」のレベルでさえ、まだ一つの意見に収束していません。 戸籍制度の改正案も存在しません。 一体いつ実現するのか、現状では定かではありません。
間違い無く「旧姓の通称使用」の方が先に実装されるので、そのあとで問題があれば選択的夫婦別姓について議論したら良いと思います。 選択的夫婦別姓を実装する事は、改正制度が決まっていない上に、システム改修コストが膨大なので、今の段階ではできないのですから。
結論
結論としては、システム的に選択的夫婦別姓は実装可能ですが、肝心の制度案は定まらず、システム改修コストは高くなる事が予想され、現状の夫婦同姓の不便は「旧姓の通称使用」の実装により多くの割合で解消される可能性が高いということです。 今、急いで選択的夫婦別姓を考える必要は無いし、急いだところで、制度案の統一が進むとも思えません。
現状は「旧姓の通称使用」をまず、進めておくのが賢明です。
保守派の「戸籍制度の解体」についての懸念は、「取り越し苦労」である可能性が高いと思います。 戸籍制度は日本の統治システムの基礎を形成する重要なシステムであり、容易に解体できる代物ではありません。
一部に欧米型個人主義の導入を推奨する言論はありますが、基本的な統治システムが違いすぎるので、欧米のシステムに良い点があるなら、個別に部品のように導入するのが賢明でしょう。 抜本的に戸籍制度を見直すのは、現実的では無いと思います。
以上、戸籍制度と選択的夫婦別姓と同性婚に関する個人的見解でした。