内閣府から「中長期の経済財政に関する試算」が出ました

経済政策

基礎的財政収支25年度に黒字化の見込み報道

2024年7月29日に内閣府より「中長期の経済財政に関する試算」が公表されました。

中長期の経済財政に関する試算 - 内閣府

これは、今後10年間の経済成長率や財政収支の状況を予測したものです。

メディアの報道を見ると、「歳出効率化努力をすれば基礎的財政収支25年度に黒字化する見通し」という報道が目立ちます。

「中長期の経済財政に関する試算」の内容を見ると、内閣府が今後の日本経済がどのように推移すると見込んでいるのか、よく分かります。

GDP成長率の将来試算

まず、GDP成長率の試算を見てみましょう。

試算は、現在の経済成長率がそのまま維持された場合「ベースラインケース」と、経済対策などが功を奏して経済成長路線に入った場合「成長実現ケース」の二つの予測試算を立てています。

グラフの青線が「ベースラインケース」赤線が「成長実現ケース」になります。

内閣府の公表しているグラフを以下に引用します。

経済の中長期的な展望

これを見ると内閣府は、「ベースラインケース」と「成長実現ケース」のどちらに置いても、プラス成長を見込んでいる事がわかります。

また、「成長実現ケース」の実質で2%、名目で3%成長という見通しは、それほど非現実的な見通しではないと思います。

財政収支の将来試算

次に、財政収支の試算を引用します。

財政の中長期的な展望

これが「歳出効率化努力をすれば基礎的財政収支25年度に黒字化する見通し」という報道の根拠です。

左側の「国・地方のPB対GDP比」に水色で「歳出効率化後 0.0」とありますが、これが財政均衡を意味します。

2025年度財政収支は「ベースラインケース」で マイナス0.4 、「成長実現ケース」でマイナス0.2 を試算しています。 もし、「成長実現ケース」で歳出効率化を実施すれば、財政均衡を意味する 0.0 になる見通しになるという事を、水色の「歳出効率化後 0.0」という文字が表しています。

歳出効率化をするかどうかは決まっていない

実際に歳出効率化を実施するかどうかは分かりません。 そのときの経済成長率や能登半島大地震の復興の進捗具合、その他の財政措置の必然性によって、財政政策は変わってくるでしょう。

この試算は、あくまで財政収支の将来見通しを示したもので、将来の財政政策を示したものではありません。

SNSの反緊縮や積極財政派の人々は、この見通しが「政府が緊縮財政を推進しようとしている」ものと勘違いして、「緊縮財政には反対です」というような意味の批判を展開していますが、見当違いな批判だと思います。

内閣府の財政均衡宣言

この試算の重要なところは、「今の税制のまま財政均衡は実現可能な見通しである」と内閣府が宣言したことにあります。

これは内閣府が「財政均衡の為に増税する必要は無い」と宣言したのと同じ事です。

財政の左のグラフを見ると、仮に25年度に財政収支がマイナスでも、26年度にはプラスになる見通しである事も分かります。

この内閣府の見通しがあると、財務省や国会の財政再建派も、増税の必然性を主張する事は難しくなると思います。

そのような意味で、今回の「中長期の経済財政に関する試算」は、画期的な内容だと思います。

財政出動の必要性は否定しません

SNS上では「インフレ目標達成の為には、まだまだ財政出動が必要だ」という主張も見られます。

現在の政府は、真水で17兆円の経済対策を7月時点でほぼ終えたばかりで、その結果は24年7月-9月期の四半期GDPを見なければ、分かりません。
経済対策の効果が現れるまで時間がかかる可能性もあるので、堅実に観察するなら24年10月-12月期のGDPを見ないと経済対策の成果が需給ギャップやGDPデフレーターなどに現れて来ないかも知れません。
もし、需給ギャップなどが不十分な値であれば、追加の財政出動が必要になるかも知れませんから、「まだまだ財政出動が必要だ」という意見を否定する事はできません。
しかし、もし24年10月-12月期のGDP統計で、適正な需給ギャップが出ると、それ以上の財政出動は肯定できません。
そのときは金融緩和だけで適正インフレ率を目指すことになると思います。

高圧経済の議論は、また別次元の議論

最近、登場した「高圧経済論」ですが、これはインフレ目標を達成した後の経済政策を提示したものであり、今のインフレ目標達成を目指す状況では、関係ありません。

現在の世界の経済政策は、まだ「インフレ目標を達成した後は財政均衡政策を取る」という考え方が支配していて、高圧経済論は採用されていません。 将来的には高圧経済論が財政政策に採用されることは、あるかも知れませんが、今は採用されていません。
「高圧経済論の是非に関する議論」は、現在の「基礎的財政収支の議論」とは、別次元で進めるべきだと思います。

日銀の将来見通しでも、インフレ目標の長期的安定的達成は、まだまだ先の事になりそうなので、高圧経済論を採用できる状況も、まだまだ先のことです。

ゆっくり議論したら良いと思います。

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