維新の「医療制度の抜本改革」提言書について – 財源論争

社会保険・社会保障
先日、維新から医療制度の改革についての提言書が公表されました。

維新から医療制度の改革提言

以下のリンクです。
この中には健康保険制度の改革も含まれています。
少子高齢化の中で健康保険財政が逼迫する事は必至ですから、この様な改革案が出てくるのは当然と言えるでしょう。
与党も「原則2割負担」など対策を検討しています。
この中で、今SNSを中心に大きく話題になっているのが、「高齢者医療制度の原則3割負担化」という制度改正です。
現役世代は大多数が「賛成」を表明しており、当然ながら高齢者は批判的になっています。
SNSでは以前からの社会保険料負担の重さから維新の医療制度改革に対する強烈な支持表明と、批判的な人物への口撃が行われています。
維新の提言発表も「原則3割負担」の部分を強調しており、他の提言はあまり強調されていません。
私も少子高齢化の進展を見ていて、現行の健康保険制度は財政改革しなければ長期的に維持できないと思っていましたから、維新が現役世代の負担を減らす方向性の健保改革案を提言する事自体は、驚くような事ではありませんでした。
ただ、維新の提言を見ると「原則3割負担を導入すれば後期高齢者医療制度の現役世代負担を無くせる」かのように誤解させるような発信していて、疑問を拭えませんでした。
私は、以前から「健康保険制度を維持する為には金融資産課税を導入して、フロー減税ストック課税を推進することが必須だ」と思っていましたので、ストック課税に関する提言が無い事に疑問を感じていました。
維新は以前、BIの提言をしたとき金融資産課税を提案しており、フロー減税ストック課税の必要性を認識していると思っていましたので、今回ストック課税に全く触れていない事が不思議でもありました。
SNSでは現職の与野党の政治家がこの点について、議論を戦わせていますので、以下に引用したいと思います。

SNS上での政治家の議論

足立康史 衆議院議員 日本維新の会

以下、SNSから引用。

 

来たる解散総選挙は、維新と自民そして公明とのガチンコ勝負になる。

 

それも、大阪の小選挙区云々といったメディア政治部が大好きな矮小な意味ではなく、後期高齢者医療制度を巡る改革競争。

 

昨年の臨時国会以来の狙い通りの展開になってきた。素晴らしい。

 

政府与党の最大の問題は、改革スピードが遅すぎること。加えて、今回、少子化対策の財源に所得ベースの医療保険料に新しい負担を上乗せしてきた。

 

致命的。

 

維新は、結党以来の大勝負に出たわけだが、弱点もある。

 

1)高齢者の窓口負担3割を煽るネット世論に追随して、あたかもそれが一丁目一番地であるかのように宣伝しつつあること

 

2)医療改革TF中間取りまとめから「資産ベースを重視した給付と負担に舵を切っていく」を削除し、負担構造の議論から逃げたこと

 

3)後期高齢者医療を支える税財源のみならず、医療保険制度と関係ない教育無償化等の「財源も(十分に)確保できる」としたこと(括弧は最後に削除してもらった)

 

こうした弱点は、真摯に政策論議をしようとする姿勢からは生まれないはずだから、執行部には、速やかに訂正し、日本の未来を賭けた戦いに真摯に愚直に臨むことを求めたい。

 

私も、微力ながら、提言の起草者として、日本国家と国民のために戦い抜いていく!

 

 

玉木裕一郎 国民民主党代表

 

以下、SNSから引用。
池田信夫(
@ikedanob
)さんから維新の医療制度改革案にコメントがないと指摘を受けましたのでコメントします。まず、維新の関係者の皆様が、医療制度改革という本質的な課題についてチャレンジングな改革案をまとめられたことに敬意を表します。音喜多政調会長とは対談もさせていただいたので、現役世代の社会保険料負担が限界にきているとの認識は一致しています。
そのうえで、一読させていただいた感想を申し上げると、肝心な部分に不明な点が多く、現役世代の負担軽減につながる政策になるのかどうか現時点で確定的なコメントは差し控えたいと思います。
特に、後期高齢者医療制度について「原則3割負担」を打ち出しておられますが、同時に、低所得高齢者に対する「新たな還付制度」を創設するとしています。
まず、この還付制度の対象となる低所得高齢者の範囲や還付する金額の規模感(1兆円程度?)が分からないので、どの程度の行動変容(受診抑制)や、後期高齢者医療制度の収入増加が見込まれるのか、現時点で判断できません。
特に、3割負担の導入目的の一つが受診抑制であるなら、負担額は上がっても受診者数が減るので、あまり収入増は期待できないのではないでしょうか。
「還付制度」の内容の詳細が分からない以上、維新案の「原則3割負担」の評価は難しいというのが私のコメントです。
次に、後期高齢者医療制度の「税財源化」について申し上げます。実は、私が維新案に関して一番驚いたのは「原則3割負担」ではなくて、後期高齢者医療制度を「税財源化」の方針を示したことです。
これまでは、あくまで「保険」という形をとってきた後期高齢者医療制度を「福祉」と位置付け、社会保険料ではなく税金で財源を確保するとの方針を転換したことは驚きました。
なぜなら、そのためには増税が不可欠になるからです。ここは思い切ったなと思いました。確かに社会保険料負担を税財源に置き換えれば、現役世代の社会保険料負担は減りますが、同時に税負担は増えます。
現在でも6兆円を超える「拠出金」(協会けんぽや組合健保等から後期高齢者医療制度に支払われる社会保険料)に変わる財源を「税財源化」に求めるなら、消費税で言えば2%程度の増税が必要ではないでしょうか。
もちろん、維新案には「税財源化」の具体的方策が書かれていませんが、税目や増税の内容によっては、税と社会保険料をあわせたトータルの現役世代の負担が下がるのかどうか不明です。
よって、「税財源化」についても、現時点では決めつけるような評価は差し控えたいと思います。
また、「保険」ではなく税財源化による「福祉」でいくなら、むしろ再分配機能をより発揮すべきであって、負担能力に応じて窓口負担に差をつける方が整合的とも感じます。この点についても設計思想をお聞きしてみたいと思います。
なお、国民民主党としても医療制度改革案を社会保障制度調査会(会長:田村まみ参議院議員)で検討中であり、今国会中には提言を出したいと思います。
具体的な内容は検討中ですが、例えば、窓口負担については、「原則3割負担+還付制度」も一案ですが、
・後期高齢者の窓口負担の原則2割負担としたうえで
・「現役並みの所得」のある方は3割負担。
・そして、「現役並み所得」の判定に当たっては、金融所得や金融資産も勘案した公平なものとする。
といった案も検討しています。
維新案の「還付制度」の内容にもよりますが、実質的な効果は、維新の原則3割負担案とそれほど変わらないものになる可能性もあります。
そして、国民民主党は、「窓口負担の公平化」に加えて、「保険給付範囲の見直し」こそが、医療制度改革の本丸だと考え改革案を検討しています。
我が国の優れた皆保険制度の持続可能性を維持するためには、公的保険の対象とすべき医療の範囲について、医学的・科学的エビデンスに基づいて不断の見直しを行う必要があります。
そのためにも医療DXの推進は不可欠ですし、また、患者の選択肢を拡大させる観点や、医療産業の市場を拡大させる観点からも、保険外併用療養費制度や選定療養制度をより積極的に活用していくべきと考えます。
国民民主党としても改革案をまとめ、維新をはじめ与野党各党の皆さんと議論を深めていければと思います。
#国民民主党

いさ進一 衆議院議員 党厚生労働部会長

以下、SNSから引用。
【私も長文注意です】
橋下さん、ありがとうございます。
私としても、ぜひ政治家同士、未来をみすえた生産的な議論ができればうれしく思います。さらに言えば、国民のみなさんとの間でも、データに基づいた冷静な議論の環境をつくってくことは本来、政治の重要な仕事とも思っています。それぞれのお立場からも、ぜひご意見をいただければと思います。
わたしの「対案」については(といっても政権与党なので、やっていることが「対案」でもありますが)、前のポストで示したつもりでした。昨年の法改正では、働く世代の減少にともなって増える負担を高齢者の皆さんにも折半してもらう改正を行いました。「負担能力」のある高齢者の保険料負担の増加も決めました。また、出産育児一時金を、高齢者の皆さんにも負担して頂くようにしました。つまり、若い世代の負担を抑え、(低所得者に配慮しながら)高齢者の負担が増える方向で、これまでも改革を進めてきていますし、これからもこの流れは継続していくでしょう。
また、前のポストで「今度は金融所得や資産に着目していく」と申し上げたのは、橋下さんのおっしゃるご提案におおむね合致しているのではと思っています。「2000兆円あるという日本の金融資産のうち高齢者が6割を保有」というのであれば、フローだけではなく、ストックを補足して給付と負担を再構築することは、「負担能力」のある高齢者にご負担をお願いすることにつながります。ただ、その前にかたずけないといけないのは、フローである金融所得課税のあり方、1億円の壁の議論でしょう。また、こうした「精緻な応能負担」にはマイナンバーカードの普及が前提条件かと思っています。
維新の皆さんに一番伺いたい、この議論を始めるにあたっての大前提となるの、財源のところです。
たとえば、20兆円近くある後期高齢者医療(75歳以上)の財源は、公費(税金)や現役世代の支援金が9割を占めており、高齢者自身の窓口負担は1.5兆円しかありません。そこを3倍にしたからと言って、若者が納める医療費保険料20兆円のどれくらいをまかなえるでしょうか。ましてや、高齢者の低所得者に還付する制度も創設するようですので、そこにも相当規模の財政が必要になるでしょう。
それどころか、維新の提言では、この改革によって現役世代の保険料負担のみならず、「少子化問題の真の解決に必要な財源は確保できる」と断言しています。維新が目指すとする大学無償化だけで4兆円近くかかります。高齢者の3割負担化などで、少子化対策の解決に必要な予算が捻出できるとは、どういう財源構成を考えているのかを知りたいです。
さらに伺います。前のポストでも書きましたが、今回の提言にいう「後期高齢者医療制度の税財源化」については、20兆円近くある医療費をどう「税財源化」するのでしょうか。具体的にどういった税目をどれくらい増税するのかを知りたいです。消費税なら8%分に相当するほどの財政規模です。
我々与党の改革は、つねに財源の制約があるなかで、現実的な議論をします。維新の民さんもここを示していただかないと、公平な議論にはならず、かつての民主党政権のような結果になるのではと危惧をしています。
いずれにしても、感情的でない冷静な議論になれば有難いです。
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改革提言についての個人的意見

引用した、三人の政治家の指摘にあるように、今回の維新の提言には、「後期高齢者医療制度の税財源化」が明記されています。
後期高齢者医療制度の財源は現在他の社会保険制度から資金を集める事で運営されており、現役世代の社会保険料を財源に運営されています。
つまり高齢者は後期高齢者医療制度の財政負担をしていないことになります。
維新案は、この後期高齢者医療制度の財源を全て税財源にすることで、現役世代だけではなく高齢者にも財政負担をして貰う改革案です。
後期高齢者医療制度の財政規模は20兆円程度と言われています。
これを全て社会保険から税財源に移行するのですから、普通に考えて増税は避けられないでしょう。
正確には社会保険料負担を減らして、税負担を増やしますので、国民の財政負担の面から見るとプラスマイナスゼロになります。
「原則3割負担」よりこちらの方が、はるかに大きな課題です。高齢者の医療費を3割負担にしても2兆円前後の歳出削減効果しか期待できないと聞きます。
「原則3割負担による歳出削減総額」を財源に、20兆円以上の後期高齢者医療制度の税財源化は不可能です。
後期高齢者医療制度の税財源化は、現役世代の社会保険料の負担を減らし、高齢者も負担する税により運営する事が、目的ですから、特に資産家の高齢者が多く負担する税制と組み合わせなければ意味がありません。
所得税や法人税ではダメだと言うことです。
消費税を引き上げるとGDP成長率が低下してしまいますので、これもダメでしょう。
となると維新の足立康史さんの言うように資産課税を新規導入しなければ、後期高齢者医療制度の税財源化は成り立たないと思います。
高齢者は貧富の格差が大きく、特に資産の格差が大きいです。
現在の税制はフローに対して課税する方式になっており、ストックの格差に応じて課税率が変わるようにはなっておりません。
固定資産税はありますが、金融資産に対して課税される制度は存在しません。
高齢者は年金生活者が多く、資産家でも所得の少ない人が少なくありません。
しかし高齢者の貧富の差は、所得の格差よりも資産の格差が主な格差になっています。
国民の金融資産の60%は60歳以上の高齢者が保有していると言われています。
しかし税制が所得に対して課税されるようになっているため資産家には充分な課税が行われない税制になっています。
日本の税制は、簡単に言えばフロー課税が主であり、ストック課税が非常に少ない税制です。
しかし現実の社会では、フローの格差よりもストックの格差の方が大きいです。
だから社会保障などの再分配政策は、可能ならばフロー課税を財源にするよりも、ストック課税を財源にする方が格差是正の面で理想的です。
率直に言って、維新の医療制度改革はストック課税を財源にしなければ成り立たないはずです。維新は医療制度改革の政策提言書の中に金融資産課税の導入および増税を明記すべきだったと思います。
高齢者の負担を増やす政策を考えるときに重要なのは、高齢者の資産格差への対応で、資産も所得もない高齢者の医療費負担を増やそうとしても「無い袖は振れない」状態になって政策として実施できなくなります。
負担を背負って欲しい相手の高齢者は「資産家の高齢者」ですので、税制自体を改革して、「誰が資産家なのか」が国税局など行政に分かるようにしなければなりません。
高齢者は資産家でも引退している人が多く、所得だけ見ても資産家と低資産者を区別できません。
能力に応じた負担を求める社会保険料改革をするなら、資産家と低資産者を区別できる体制は必須です。
これができなければ、高齢者負担の拡大を求める事ができません。低資産低所得の高齢者の生活を破壊してしまうリスクもあるからです。
つまり、健康保険制度の財政改革は、ストック課税(金融資産課税)を新規導入しなければ実現不可能なはずです。
先の三人の政治家議論を見ていても、私にはそのように感じられます。
今回の維新の執行部による政策提言は、重要な部分が抜け落ちているように見えます。
選挙対策なのかも知れませんが、裏目に出そうな気がしますので、ストック課税の提言を避けて進めるのは止めた方が良いと、個人的には思います。

健康保険制度改革はとても難しい改革

維新の医療制度改革の提言そのものは、必要な改革なので否定しません。
あくまで、提言の不備をある程度埋める必要性があると言っております。
そもそも健康保険制度の改革は、どうしても金融資産課税を含めた大がかりな税制改革が必要な難しい課題です。
私も金融資産課税と一言で言っておりますが、預金と株式と債券(国債など)では扱いが異なりますし、暗号通貨や金塊や宝石などどうするのかもあり、一つの税制で纏まるものではありません。
金融資産課税それ自体が非常に難しい話です。
健康保険制度の改革は、野党の維新単独で設計できるものではなく、与党と官僚を含めた大規模なプロジェクトを編成して、税制と健康保険制度の設計に取り組まなければ、できる物ではないと思います。
従って、維新が医療制度改革について不完全ながらも提言した行為自体は評価しても良いと思います。
しかし、不完全である故に議論や批判を呼ぶことは避けられないでしょう。
維新の政策提言は、「議論の叩き台」としては意味ある提言だと思います。
また、「原則3割負担」や「後期高齢者医療の税財源化」以外にも多数の提言がありますので、そちらは与党も前向きに耳を貸す事を希望しますね。
この記事は、維新や与党に対する批判では無いことは、読んで分かると思います。
以上、個人的意見でした。
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