上振れする日銀のインフレ見通し(YCC再修正)

時事

YCCの上限金利を少し引き上げ

既に報道されていますが、2023年10月31日に日銀が再びYCCの方針を修正しました。

以前は10年物国債金利の変動幅を ±0.5% から ±1.0% に拡大しました。

今回は、上限が 1.0% である事が厳格に維持されていたのが、若干 1.0% を超える事を容認するという、上限の柔軟化です。

金利が 1.0% を大きく超えて 2.0% などに上がる事は無いようです。1.2% ならあるかも知れません。

イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用のさらなる柔軟化

YCC再修正の発表後、為替の方も「日銀の金融政策に大きな偏向無し」と市場が解釈したためか、1ドル150円の円安に進みました。

元々円安が進行していましたので、為替への影響はないと見なして良いでしょう。

重要なのはインフレ見通し

日銀がYCCの10年物国債金利の上限を少し引き上げたのは、輸入インフレや米国金利の上昇の影響を受けて、国内インフレ率が上昇しているからです。

2023年度から2025年度まで三年間のインフレ率見通しが、今回の発表と同時に公表されました。

経済・物価情勢の展望(2023年10月)

全てのインフレ率の見通しが上振れています。

特に、以前の見通しでは、2024年度にはインフレ率がかなり下がる見通しだったのが、今回は、エネルギーインフレが2024年度も継続する見通しとなりました。

しかし、エネルギーと生鮮食品を除いたコアコアCPIでは、2024年度のインフレ率は下がります。

2025年度のインフレ率はどちらも下がる見通しで、しかもこの値は下振れリスクが高いそうです。

このインフレ率の変移の予測は、以前と大きく変わりませんが、インフレ率の値が以前より高くなっています。

特にコアコアCPIの値が、24年度25年度共に 1.9% に上がりました。

インフレ目標が2.0%ですから、インフレ目標達成直前で停滞することになります。

ディマンドプルのインフレ率 1.9% にエネルギーや食料のコストプッシュ・インフレが重なりますので、中央銀行の金融政策が、調整的になる事も理解できます。

これまでのように量的緩和をガンガンやってよい局面ではない気がします。

しかし、ディマンドプルのインフレ目標は達成出来ていませんので、金融緩和は継続しなければなりません。

また、ディマンドプルのインフレ率が 1.9% となりますと、ほとんど目標の 2.0% に近い値ですので、雇用情勢も完全雇用に近い状況になる事が予想されます。

今のところ、需給ギャップは +0.1% と少なく、とても長期的安定的にインフレ目標を達成したとは言えません。

政府の財政出動による需要拡大政策もまだまだ必要でしょう。

しかし、同時に労働市場は既に新規労働者を供給できなくなりつつあります。

労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)9月分結果

労働力調査を見る限り、

 ・完全失業者数は182万人。前年同月に比べ5万人の減少。3か月ぶりの減少

 ・求職理由別に前年同月と比べると、「勤め先や事業の都合による離職」が6万人の減少。「自発的な離職(自己都合)」が4万人の増加。「新たに求職」が1万人の減少

とあります。

「新たに求職」が減少していますから、今後これまで働いていない新規労働者が増加するペースは遅くなっていくでしょう。求職者は転職者ばかりです。それも自発的転職が増加しています。

日銀の発表を見る限り、もうデフレ経済は終わっており、健全なインフレ経済の入り口ぐらいには差し掛かっていると見て良いと思います。

気になる点としては、2025年度のインフレ率下振れリスクがどのぐらいになるかという点でしょう。これまでのインフレ率の上振れを見る限り、せいぜい 0.3% から 0.5% といった変移幅ではないかと思います。

一般の日本国民としては、今後の日本経済は9割方「完全雇用」のインフレ経済であるという認識で良いと、私は思います。

インフレ人手不足経済への備えが必要

もはや一般国民にとってデフレ経済は終わったと見なして良く、これまで三十年の長きにわたって市場を支配してきたデフレマインドを、そろそろ放棄する時期を迎えていると、私は思います。

全ての需要と供給の大小差が逆転します。

デフレ経済では、売り手が買い手より多い「買い手市場」でしたが、インフレ経済では売り手より買い手が多い「売り手市場」になります。

労働市場では、雇う企業より、労働者の方が少なくなります。

下請け仕事では、発注する企業より、受託する下請け企業の方が、少なくなります。

タクシーや宅配業などサービスは、業者が不足気味になり、利用する事が困難になります。

一般消費者は、物の値上げを受け入れなければなりません。

全ての物価がゆっくりと上がっていき、労働者の賃金も、下請け受託業者の報酬も、上がります。

デフレが三十年も続きましたので、ほとんどの人がインフレ経済を知りません。

我々の大半は、未経験のインフレ人手不足経済の常識に合わせていかなければなりません。

デフレマインドを捨てられない企業や人は、冗談抜きで滅びると思います。

誰もが需要と供給のバランスについて、考えなければならなくなるでしょう。

ある意味で厳しい時代です。

しかし、これから来るインフレ経済は好景気です。

明るい気持ちで受け入れたいものです。

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