岸田総理の所信表明もそっちのけで、日本のGDPがドイツに抜かされ世界4位になるというニュースで、なんか大騒ぎになっています。
GDP規模で日本は4位に転落、ドイツに抜かれる-IMF23年予測
日本のGDP 世界3位から4位に後退…ドイツに抜かれる IMF=国際通貨基金が予測
IMF試算GDPで4位転落、持続的成長へ万全期す=森屋官房副長官
個人的には全く驚くようなニュースではなく、近いうちにインドなど新興国に世界GDP順位で抜かされる事は、ずっと前から予測されていた事です。
中国にはかなり前から抜かされていますし、アジアの急成長している新興国は日本よりも人口の多い国も多く、将来いくつもの国にGDPで抜かされるのは既に決まっている話です。
今回のニュースの意外だった点は、日本より人口の少ない成熟した先進国であるドイツに抜かされる点です。
しかし、これはドイツと日本の経済状況を見る限り、ドイツにとってそれほど良いニュースではなく、日本にとって悪いニュースでもないのです。
ニュース・ソース
2023年のGDPは予測値で、まだ確定値ではありません。
予測を立てたのは、IMFで、以下の公式サイトで公開されています。
World Economic Outlook (October 2023) – GDP, current prices
リンク先のページを開いて、[map] [list] [chart] のlistボタンをクリックしますと、「Billions of U.S. dollars」単位の2023年GDP予測値が国ごとに掲載されています。
Germany —- 4.43 thousand
Japan ——- 4.23 thousand
と書かれており、確かに日本は4兆2300億ドル、ドイツは4兆4300億ドルで、ドイツに抜かされるようです。
ちなみにインドと中国と米国は以下になります。
India —– 3.73 thousand
Chian, People’s Republic of —– 17.7 thousand
United States ——– 26.95 thousand
インドに抜かされる日も遠くないでしょう。
欧州と日本の金融政策の違い
まず、なぜ日本のGDPがドイツに抜かされたのか、説明したいと思います。
パンデミック対策で日本は欧米に比べて、感染対策に成功していて、感染死者数は遙かに少なく、失業率も欧米ほど増加しませんでした。
また、ウクライナ戦争では欧州は、ロシアの天然ガスに依存していたため、ロシアに対する経済制裁の結果、エネルギー価格が高騰する事になりました。
特にロシア依存が大きく原発を政治的に否定しているドイツのエネルギーインフレは高く、コストプッシュインフレで経済を圧迫する結果となっています。
日本でもエネルギー価格は高騰しましたが、元々ロシアへの依存率は高くなく、原発再稼働の決定と、政府のエネルギー補助金などの政策効果もあり、欧州ほど影響は大きくないです。
つまり、欧州では、パンデミックの影響による労働者の生産活動への復帰が遅れる事によるインフレと、エネルギー価格高騰によるインフレ、そして小麦価格高騰などの影響もあって、欧州全体が高インフレで苦しんでいる状況です。
一方、日本では「失われた30年」という長いデフレ経済で、長期の低インフレ率に苦しんでおり、最近アベノミクスでようやくデフレではないレベルのインフレ率に上がりました。
しかし、まだ日銀は金融緩和を継続する必要がある経済状況で、まだまだインフレ率を引き上げる必要がある経済状況です。
欧州ユーロ圏のECBでは、欧州の高インフレを抑制するために、金利を引き上げる金融引き締め政策が取られています。
円経済圏の日本銀行は、アベノミクスで10年間も金融緩和を実施し、今も継続しています。
ユーロは通貨量を絞り、円は通貨量を増やしているわけですから、ユーロと円の為替は、ずっとユーロ高の円安となっています。
この状態では、ドル基準で見ますと、ユーロ経済圏の評価規模は上がり、円経済圏の評価規模は下がる事になり、円経済圏のGDPを含む全ての評価価値は円と共に下がる事になります。
これが、日本のGDPがドル換算で、ドイツのGDPより小さくなった理由です。
別に日本経済が縮小したわけでもなければ、ドイツや欧州の経済が拡大したわけでもなく、純粋にユーロと円の為替変化の結果が現れただけです。
もし、将来為替レートがユーロ安の円高になれば、容易に逆転してしまう程度の話でしかないのです。
ドイツの景気は良いのか?
では、日本のGDPを抜かしたドイツ経済は好調なのでしょうか?
2023年のGDP予測を出したIMFが、同時に世界各国のGDP成長率の予測を公開しています。
この報告では、IMFが2023年と世界各国の経済成長率予測値を報告しています。
その内容は以下のようになっています。
2023年の実質GDP成長率(%)
ドイツ -0.5%
フランス 1.0%
イタリア 0.7%
英国 0.5%
スペイン 2.5%
日本 2.0%
カナダ 1.3%
米国 2.1%
ご覧のように、日本は2.0%成長が予測されていますが、ドイツは0.5%のマイナス成長が予想されています。
ドイツだけではなく、ユーロ圏はほとんど低成長が予想されているのが分かると思います。
特にロシアへのエネルギー依存が大きく原発を否定しているドイツはダメージが大きく、お世辞にも景気が良いとは言えない状況です。
逆に日本は、アベノミクスの成果が実り、デフレの完全脱却まであと少しのところまで来ています。
GDPも順調に増加し、税収も増えています。
今のところ、経済が悪い方向へ行く、予想はされていません。
先日の岸田政権の所信表明でも「経済、経済、経済」と経済政策を重視する姿勢が鮮明になりました。
具体的な経済政策はまだ出てきていませんが、GDPギャップは既にプラスへ転換して、さらに拡大する路線に入っているようです。
ここに減税を含めた経済対策を加えるのですから、悪い方向には行きようがないと思っています。
「経済対策が不十分」になる可能性はありますが、それでも経済がマイナス成長する事態は、現状では考えにくいと思います。
貿易競争するなら円安は有利
既に円安の結果として、トヨタなど多国籍企業は過去最高収益を記録しています。
日本製品を海外へ輸出するなら円安が有利である事は、明白です。
輸入は不利になりますが、エネルギーに関しては原発再稼働も決まり、再生可能エネルギーの生産も対外競争上は有利となります。
国内産業も国内市場で外資と競争していますので、円安なら国内市場でも有利になります。
ユーロ高の欧州では逆になります。
欧州内産業は米国や日本や中国などの企業との競争で不利になります。
エネルギー輸入は有利ですが、ロシアやウクライナからの輸入は不可能ですので、あまり恩恵が得られません。
フランスなどは原発で電力を国産化していますので、ユーロ高によるエネルギーの恩恵はないです。
つまり、欧州は高インフレとユーロ安で、経済的に苦しんでおり、ユーロ高のみによるユーロ圏の評価価値が上がる事は、貿易の競争力を削ぐ現象で、「ありがた迷惑」な状況です。
そして日本にとっては、むしろ輸出貿易が有利になり、有り難い現象です。
重要なのは国内経済成長率
率直に言って、為替の影響で簡単に順位が変わってしまう「GDPの世界順位」など、重要な意味は無く、それより国内のGDP成長率の方がずっと重要です。
報道機関もこういう、実質意味の無いニュースを大げさに取り上げるより、各国の国内経済状況をもっと詳しく解説すべきだと思います。
ドイツ人はこの冬を無事に乗り切れるのでしょうかね?
暖房のエネルギーは確保できるのでしょうか。
そちらの方が余程気になります。