2023年のコストプッシュとディマンドプルの状況を解説

経済政策

今の日本はインフレ率がだいたい3%強になっており、物価上昇率に賃金上昇率が追いつかず、国民にとってはやや苦しい状況になっております。

しかし、雇用は順調に増加しており、デフレ時代よりずっと豊かになっています。

雇用が増えたのは、日銀と政府の2%インフレ目標政策の成果であり、物価を引き上げる政策の正当性を裏付ける証拠であります。

現在、消費者物価指数は3%強で高止まりしておりますが、この物価上昇はウクライナ戦争などにより海外の資源流通に障害が生じており、石油や天然ガスなどの海外資源の価格が高騰したためであります。

前者のインフレをディマンドプル・インフレと呼び、後者の海外資源高によるインフレをコストプッシュ・インフレと呼びます。

国民にとって良い物価上昇率は2%強程度であり、これより高すぎても低すぎても、国民は貧しくなります。

物価上昇率(インフレ率)2%強程度になりますと、雇用も増え、物価上昇率に賃金上昇率が追いついて、毎年国民生活が豊かになる経済の好循環が起きます。

現在の日本では、日銀と政府のインフレ目標政策によるディマンドプル・インフレと、海外資源高によるコストプッシュ・インフレの二つのインフレが同時に起こっています。

だいたい、ディマンドプル・インフレが1%強ぐらい、コストプッシュ・インフレが2%弱ぐらいで、両方が合わさり3%強程度のインフレ率になっています。

政府と日銀は、ディマンドプル・インフレは引き続き引き上げて、コストプッシュ・インフレは引き下げなければならない、難しい状況を迎えています。

新聞社などは経済が分かりませんので、見当違いな政府日銀批判を行っています。

岸田政権は所得税減税を含む経済対策の計画を指示したそうです。

岸田首相 期限付きの所得税減税 自民・公明両党に検討指示へ

おそらく、エネルギー価格の引き下げや、消費者の可処分所得引き上げなどにより、ディマンドプル・インフレを引き上げて、コストプッシュ・インフレを引き下げる政策を実施するでしょう。

良い機会ですので、今の日本のコストプッシュ・インフレとディマンドプル・インフレの状況について解説したいと思います。

需要曲線と供給曲線

物価上昇率を決定するのは、市場であり企業が価格を決定しているという一般的な認識は間違いです。

価格は市場の需要(消費者の必要性と欲)と供給(生産能力)のバランスで決まります。

その需要と供給のバランスを表しているのが、以下の需要曲線と供給曲線グラフです。

横の座標は「量」を表します。

縦の座標は「価格」を表します。

緑色の需要曲線は右下がりで、価格が下がるほど量が増える事を表しています。

赤色の供給曲線は右上がりで、価格が上がるほと量が増える事を表しています。

需要曲線は消費者の性質を表し、供給曲線は企業など生産者の性質を表します。

通常、消費者は商品価格が安いほど、たくさん商品を買います。

生産者は、商品価格が高いほど、たくさん商品を製造して販売しようとします。

その性質を、曲線(直線)で表しているのです。

需要曲線と供給曲線の交点が市場価格(均衡価格)となります。

需要が変化したとき

消費者の所得(年収など)が上がったり、雇用が増えて給与所得者が増えたりしますと、需要の総量が増えて、需要曲線が右にシフトします。その結果として均衡価格が上がります。

逆に、不景気などで需要が減りますと、需要曲線が左にシフトします。その結果として均衡価格が下がります。

供給が変化したとき

規制緩和や技術革新などで企業等の生産性が上がりますと、生産価格が下がり生産量が増えて、供給曲線が右にシフトします。その結果として均衡価格が下がります。

逆に、生産投資が停滞して生産機械が古くなったり、規制強化や、原材料価格や燃料代が高くなったりして、生産量が減りますと、供給曲線が左にシフトします。その結果として均衡価格が上がります。

ディマンドプル・インフレ

需要が増える事で、起きるディマンドプル・インフレは、以下のようにグラフで表されます。

これは、アベノミクスにおいて、政府と日銀が実施した経済政策の結果を表している事にもなります。

コストプッシュ・インフレ

資源価格高騰等で生産価格が高騰し、生産量が減る事で起きる、コストプッシュ・インフレは、以下のようにグラフで表されます。

これは、ウクライナ戦争で起きた資源価格高騰の結果を表している事にもなります。

コストプッシュとディマンドプルが同時に起きる

今の日本では、アベノミクスによるディマンドプル・インフレと、ウクライナ戦争等によるコストプッシュ・インフレが、同時に起こっています。

これをグラフで表したものが、以下になります。

需要曲線の右シフトと、供給曲線の左シフトが、重なって二重に均衡価格が上がります。

今、必要な経済対策

ディマンドプル・インフレとコストプッシュ・インフレが重なったインフレ率を、図で表すと次のようになります。

適正インフレ率は2%強で、黄色の線で表しています。

ディマンドプル・インフレは1%強程度で、適正インフレ率2%強に届かず、その上にコストプッシュ・インフレ2%強が重なり、3%を超える高インフレになっています。

今の日本政府と日銀がやるべき経済政策は、コストプッシュ・インフレを引き下げながら、ディマンドプル・インフレを引き上げる政策です。

具体的に言えば、電気代や石油やLNGなど、エネルギー価格を引き下げて、消費者の消費購買力を引き上げる政策が必要です。

最適なのは「減税」政策で、他にエネルギー補助金や、労働者の賃金引き上げ補助などが考えられます。

単純に需要拡大政策を実施してしまいますと、ディマンドプル・インフレもコストプッシュ・インフレも両方引き上げてしまいますので、国民生活が悪化する可能性もあります。

かと言って、需要を下げると労働者の賃金が下がり、失業率も上がりますので、さらに国民生活が苦しくなります。

非常に難しい局面を迎えている事が、分かるはずです。

今なぜ、岸田総理が所得税減税を含めた経済対策を指示したのか、お解りになったでしょうか。

岸田政権は既に原発再稼働を決定し、ガソリンや灯油など燃料代への補助金も支給しています。これららはコストプッシュ・インフレを引き下げる政策として正しいです。

ディマンドプル・インフレは引き上げなければなりませんので、財政出動が必要な点も忘れてはいけません。補正予算を組むのはそのためです。

大手新聞社は、この事が分かっていませんので、日銀に対して「金利を上げろ」と叫んだり、政府に対して「財政均衡を目指して消費税増税しろ」と主張したり、見当違いな批判の声を上げます。

消費税増税などしたら需要が減り、ディマンドプル・インフレの方が下がります。

日銀が金利を上げても、同様に需要が減ります。

新聞社も経済政策を評論するなら、需要と供給のバランスや、コストプッシュ・インフレとディマンドプル・インフレの違いぐらい把握して欲しいと思います。

以上、コストプッシュ・インフレとディマンドプル・インフレの解説でした。

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