2023年8月7日に日銀から7月28日に公表された金融政策決定会合の際に議論された主な意見の内容が公表されました。
以下のPDFファイルがそれです。
金融政策決定会合における主な意見(2023年7月27、28日開催分)
非常に短くまとまっておりますが、PDF形式のファイルなので、スマホなど端末によっては読めなかったり、読みにくいだろうと思うので、丸ごと全部引用して、ここに掲載します。
公的機関の公開文書なので、コピペしても問題無いと認識しています。
では以下がその引用です。
金融政策決定会合における主な意見
公表時間
8月7日(月)8時50分
日本銀行
金融政策決定会合における主な意見
(2023年7月27、28日開催分)
Ⅰ.金融経済情勢に関する意見
(経済情勢)
わが国経済は、緩やかに回復している。先行きもペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみられるが、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い。
海外経済は回復ペースが鈍化しているが、国内経済は企業や家計の景況感が改善傾向にあり、企業の設備投資は増加している。
経営者からは人材確保のため賃上げが必要との声が多く聞かれ始めている。所得環境にも前向きな動きがみられている。
単年度ではなく、将来にわたる賃上げを約束する企業が出てきている。人材の獲得、係留のためには、このような工夫・取り組みが必要な状況ということであり、経済の好循環を一段と進めるものと期待できる。
付加価値を高めるための工夫と投資により賃上げ・値上げを実現しようとする企業と、低賃金・低付加価値・低価格路線で粘り抜こうとする企業への二極化がみられるが、前者が主流となっているとはまだいえない。
賃金上昇を伴う形での物価上昇には距離があり、デフレマインド払拭の千載一遇のチャンスを手放さないためにも、経済・賃金構造の変革の状況をよく把握し、コロナ禍で借入金が増加した中小企業の投資意欲を削がぬよう慎重な情勢判断を行うことが必要である。
「金融政策決定会合における主な意見」は、①各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、②議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。
中小企業の変革を後押しする事業承継等、経営リソース強化のための地域金融機関の伴走支援が重要である。また、成長期待に働き掛け、デフレマインドを変革するには、名目GDP成長とともに、物価以上に名目賃金が上昇する経済・賃金構造を実現していくことが重要である。
(物価)
消費者物価の上昇率は、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで低下した後、再び上昇率が緩やかに高まっていくとみられる。
物価の上昇率は、賃金上昇に伴って上押しされるものの、輸入物価の下落に伴う下押しにより、次第に縮小していくと考えられる。物価が再び反転するのは、海外経済の持ち直し後になると考えられる。
最近の価格転嫁による高水準の企業収益見通しを受けて今年度は価格転嫁を急ぐ動きが一服する可能性はあるが、時間をかけて既往のコスト上昇を価格に転嫁する動きは続くと考えられる。
今年度の物価見通しの上振れは、主として、輸入物価からのコスト・プッシュの影響が予想より長引いていることによるものだが、企業の賃金・価格設定行動に変化の兆しもみられており、物価面への影響を注視していく。ポイントは来年も賃上げが続くかどうかの見極めである。
消費者物価上昇率が今年度後半に2%を下回る水準に低下した後、再び2%に向けて上昇し、それが安定的に維持されるためには、本年の春季労使交渉を上回る賃上げがトレンドとして定着することが重要である。
昨年来コスト・プッシュによる財中心の価格上昇が生じてきたが、今春の高水準のベア実現を機に、来年度以降の賃上げを検討する企業も増えており、賃上げとサービス価格の上昇が続く新たな局面が見込まれる。
先行きの消費者物価は、労働需給の引き締まりを受けた賃上げに伴って企業の価格転嫁の動きが広がることで、上振れる可能性がある。
足もとの企業の賃上げや価格転嫁は、30年近く抑制されていたペントアップ的な側面を持つ現象であり、賃金や販売価格がこれまでにないペースで上昇を続ける可能性もある。
Ⅱ.金融政策運営に関する意見
「物価安定の目標」の実現に向けて、粘り強く金融緩和を継続していく必要がある。
2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現するためには、金融緩和の継続を通じて賃上げのモメンタムを支え続けることが必要である。
2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況には至っていない中で、マイナス金利政策の修正にはなお大きな距離があるし、イールドカーブ・コントロールの枠組みは、公表しているコミットメントに沿って、継続していく必要がある。
今後も物価や予想物価上昇率の上振れ方向の動きが続く場合、金融緩和の効果が強まる一方、長期金利の上限を0.5%の水準で厳格に抑えることで、債券市場の機能やその他の金融市場におけるボラティリティに影響が生じるおそれがある。
先行きの物価見通しにおいて上下双方向のリスクがより大きくなっていることを踏まえると、それに対応できるようにイールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化した方がよい。
短期間で物価見通しが大幅に上振れるなど、経済・物価の不確実性がきわめて高い中、イールドカーブ・コントロールをより柔軟に運用していくことで、上下双方向のリスクに機動的に対応し、市場機能等にも配慮しながら、うまく緩和を続ける「備え」をするべきである。
2%の物価安定の目標を早期に達成するためには、長期金利の低位安定を図ることが重要である。物価安定目標の達成確度が十分に高まるまでは、イールドカーブ・コントロールを柔軟化しつつ維持していく必要がある。
必要な期間にわたって円滑に金融緩和を続けられるようにするためには、混乱なく対応できる間にあらかじめイールドカーブ・コントロールの柔軟性を一定程度高めておくことが望ましい。
しばしば指摘されている通り、イールドカーブ・コントロールの調整には固有の難しさがある。柔軟化に際しては、運用に状況に応じた弾力的対応を可能とする枠組みを用いることが適当である。
「2%の持続的・安定的な物価上昇」の実現が、はっきりと視界に捉えられる状況になっていると考えており、出口までの間、円滑に金融緩和を継続していくため、イールドカーブ・コントロールの弾力化を進めるべきである。
将来的なリスクへの予防措置としてイールドカーブ・コントロールを柔軟化する一方、金融緩和を維持するという基本方針は継続するべきである。
長期金利に上限を設ける中でインフレ予想が高まると、実質金利を通じた緩和効果が高まるが、同時に市場の不安定化といった副作用も強まる。物価環境に応じた長期金利の上昇をある程度認めることで、実質金利は安定し、一定の緩和効果を維持しながら副作用を抑制できる。
イールドカーブ・コントロールの運用の柔軟化にあたっては、①市場に金利形成を極力委ねること、②市場の流動性の確保・回復を図ること、③金利の急激な変動を避けることが重要であり、それを踏まえたオペレーションが必要である。
経済・物価情勢の改善が続く中、先行きの金利動向を巡る不確実性が高いとみて、債券投資を手控える投資家がみられる。現下の情勢を踏まえると、緩和的な金融環境は維持しつつ、市場機能に配慮した金融政策を行うことが適当である。
現在の物価上昇は輸入インフレの域を出ておらず、多くの従業者が働く中小企業の賃上げモメンタム向上には、中小企業の「稼ぐ力」向上が重要である。イールドカーブ・コントロールの運用の柔軟化はそれを確認したうえで行う方が望ましい。
Ⅲ.政府の意見
(財務省)
今回提案のあった内容は、金融緩和の持続性を高める観点から実施されるものと受け止めている。
政府としては、先日、「令和6年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」が閣議了解されたところ、令和6年度予算では、骨太方針2023に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進し、経済再生と財政健全化の両立を図っていく。
日本銀行には、政府との密接な連携のもと、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。
(内閣府)
提案のあった事項は、日本銀行が物価安定目標を持続的・安定的に達成する、そのために必要な金融緩和の取り組みをより持続的に推進するためのものと受け止めている。こうした変更の趣旨について、対外的に丁寧に説明いただくことが重要である。
日本銀行には、今後とも経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形での2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて粘り強く金融緩和を継続していただくよう期待する。
以 上
「YCC解除」に該当する要望は無い
世間の報道では、「YCCの形骸化だ」「実質YCCの解除だ」「将来金利を引き上げるための布石だ」という意見が報道されておりますが、この日銀審議委員たちの「主な意見」のなかに「金融緩和解除」や「YCC解除」や「金利引き上げ」「量的緩和終了」に該当する意見は一つもありません。
ただ、従来と同様の金利許容幅±0.5%の運用には否定的な意見は見られます。
「長期金利の上限を0.5%の水準で厳格に抑えることで、債券市場の機能やその他の金融市場におけるボラティリティに影響が生じるおそれがある」
「必要な期間にわたって円滑に金融緩和を続けられるようにするためには、混乱なく対応できる間にあらかじめイールドカーブ・コントロールの柔軟性を一定程度高めておくことが望ましい」
「イールドカーブ・コントロールの調整には固有の難しさがある。柔軟化に際しては、運用に状況に応じた弾力的対応を可能とする枠組みを用いることが適当である」
しかし、これらの意見の中にもYCCや金融緩和を解除する事を推奨する意見は存在しません。
全てにおいて、「粘り強く金融緩和を継続していく必要がある」という方向性の意見で、一致しているように見えます。
また、岸田政権に対しては、世間の報道や経済評論では、「岸田総理は金利を上げたがっている」「政府は金融緩和を中止させる可能性がある」との評論をよく聞きます。
私もその可能性を考えていましたが、以下の内閣府の意見を見ると、どうも見当違いのようです。
(内閣府)
提案のあった事項は、日本銀行が物価安定目標を持続的・安定的に達成する、そのために必要な金融緩和の取り組みをより持続的に推進するためのものと受け止めている。こうした変更の趣旨について、対外的に丁寧に説明いただくことが重要である。
日本銀行には、今後とも経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形での2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて粘り強く金融緩和を継続していただくよう期待する。
「YCCを解除したい」「金融緩和を中止して金利を引き上げたい」という要望を持つ者は、少なくとも日銀と内閣府には、いないように見えます。
嫌われ者の財務省は、
(財務省)
今回提案のあった内容は、金融緩和の持続性を高める観点から実施されるものと受け止めている。
政府としては、先日、「令和6年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」が閣議了解されたところ、令和6年度予算では、骨太方針2023に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進し、経済再生と財政健全化の両立を図っていく。
日本銀行には、政府との密接な連携のもと、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。
相変わらず「財政健全化」を第一に考えているようですが、金融緩和の解除を求める意見は主張していません。
私には政治の裏を読み取るセンスはありません。
もしかしたら、どこかで金融緩和の解除を企む勢力が暗躍しているかも知れませんが、公開された文書の中からは、金融緩和の解除を求める存在は認められません。
岸田総理は、防衛費倍増のとき、その財源として法人税増税を実施する事を一度明言して、自民党内部の積極財政派と衝突した事があります。
それまで、増税はしない方針だったのに、突然「増税」をかなり強行に推進しようとした経緯がありますから、油断できないのは認めます。
あの日から、私も官邸や日銀が、ある日突然「緊縮財政」「金融引締め」に転じるのではないか、という不安を抱えています。
だから、今回のYCC柔軟化に対しても、「金融引締め」の不安を語る人は絶えません。
正直、無理もないと思います。
ただ、今回公表された資料を見る限り、金融引締めを進める意図は全く見られないというのが、事実だと思います。
日銀の資料は、全て公開されているのだから、皆さんもご自分で、公表資料を読んで考えてみるのが、一番良いと思います。