「日本のGDPがドイツに抜かされた」報道のどこが間違っているのか

時事

先日、内閣府から2023年10-12月四半期のGDP速報がありました。


その結果を受けて、多くの報道機関が「日本のGDPがドイツに抜かされて世界第四位に転落した」と非常に悲観的に報道しています。


 


この報道は、複数の経済学者やエコノミストなどが、批判的にコメントしたり記事に書いています。


「GDPでドイツに抜かされた」と騒ぐメディアのどこが間違っているかを、ここで簡単に解説したいと思います。


 


今回の「現象」は、正確には「現在の為替レートで換算した場合、ドルベースGDPでGDPを比較しますと、日本のGDPはドイツのそれより小さくなり、世界第四位になった」と説明できます。


 


報道のどこが悪いのか


メディアの報道の間違いは、以下の点にあります。


購買力平価で比較すべき


第1に、国家間のGDPを比較する上で、為替レートに左右される「ドルベースGDP」による比較は不適切であり、比較するなら購買力平価を基準に比較すべきです。


「一人あたりのGDP」を見るべき


第2に、国民の豊かさを比較するならGDPを比較するより、「一人あたりのGDP」を比較すべきです。


金融政策とインフレ率の差を無視するな


第3に、今回「ドルベースGDP」で日本がドイツに抜かされたのは、ユーロ圏はインフレ抑制の為に金融引き締めをしており、それに対して日本円はデフレ脱却のために金融緩和を実行中ですので、ユーロ高円安となっているのが原因。


ユーロ高は経済の好調を示す現象ではありませんし、円安は経済の不調を示す現象ではありません。


現在の貨幣価値の変移だけを切り取って、好景気不景気といった経済情勢を理解したつもりになっている認識が、根本的に間違っています。


今のドイツ経済はそんなに良くない


第4に、現在のドイツ経済は、エネルギー政策とエネルギー外交の失敗によりもたらされた高インフレで苦しい状況にあり、IMFの予想でもしばらく低成長がマイナス成長が続く不景気です。


お世辞にも日本が見習うような状況ではありません。むしろ悪い見本です。


今の日本経済はそんなに悪くない


第5に、現在の日本経済は、メディアが説明するほど悪い状態ではありません。


むしろ長いデフレ不況から脱却の見通しが立ち、好ましい経済に近づいています。


今より過去の「失われた30年」を比較した方が有意義


第6に、日本とドイツの経済を比較するなら、直近の経済を比較するより、過去の「失われた30年」の期間の経済を比較する方が有意義であり、現在の経済政策だけ比較するとドイツより日本の方が良い面が多いですので、あまり日本経済の有意義な反省には繋がりません。


 


これら全てをきちんと説明しますと、とてもブログ記事一つでは説明できませんので、ここでは一部だけ説明します。


 


購買力平価による経済の比較


よく、野党陣営や財界人などがアベノミクスを批判するときに、金融緩和によって生じた円安により、日本のドルベースGDPが下がった事を指摘します。


今回の「日本のドルベースGDPがドイツに抜かされた」という報道も同類です。


 


しかし、アベノミクスで円ベースのGDPは向上しており、雇用も400百万人も増加していることから、日本経済は明らかに成長しており、ドルベースGDPにあまり国内的意味は無い事は、国内経済情勢を見れば明らかです。


 


国家間の経済力を比較するなら、経済の専門家は多くの場合、ドルベースGDPよりも購買力平価という指標で、GDP等の経済力を比較します。


購買力平価とは、有名なところではビックマック指数というのがあります。グローバルに同じ商品を提供している企業の商品の場合、その商品の実質価値はどこの国でも同じであり、その商品を貨幣に見立てて定義した仮想貨幣の為替レートを基準に、GDPなど国家間の経済を比較する指標が購買力平価です。


現在は、ビックマック指数のような絶対的購買力平価ではなく、以下の数式で為替と二国のインフレ率を元に計算して導き出す相対的購買力平価を基準に、国家間の経済を比較するようです。


 


相対的購買力平価 = 基準時点の為替相場 × 自国の物価指数 ÷ 外国の物価指数


 


相対的購買力平価でGDPを比較した場合、日本のGDPはまだドイツには抜かされてはいないようです。


ただ、個人的には日本とドイツのGDPを比較する事に、有意義な意味は無いと思っています。


 


参考までに、以下の記事を紹介します。


日本とドイツのGDP推移 - ニッセイ基礎研究所


 


「一人あたりのGDP」ではもう抜かされている


GDPを人口で割った数値が「一人あたりのGDP」ですが、「一人あたりのGDP」ではずっと昔に日本はドイツどころかフランスにもイギリスにも抜かされており、デフレ経済の期間はほとんど成長していません。


日本経済と海外の経済を比較するなら、GDPより「一人あたりのGDP」を比較した記事を書くべきでしょう。


こちらの方が日本経済の建設的な反省になったはずです。


間接的な西側の同盟国であるドイツと、人口も違うのにGDPを比較する事は無意味です。


まだ、仮想敵国の中国と比較するなら理解できますが、ドイツやフランスやイギリスなどとGDPを比較してどうするのでしょうか?


 


比較する視点と対象を誤っている


日本経済とドイツなど欧州の国の経済を比較するなら、「今の経済成長状態」と「過去30年の経済成長状態」を分けて比較すべきです。


つまり、時間軸を過去と現在の二つに分けて、それぞれ比較する必要があります。


「過去30年の経済成長状態」で日本とドイツを比較しますと、ドイツは順調に30年間経済成長を継続してきましたが、日本は「失われた30年」と言われるように、アベノミクスを開始するまで経済成長が停滞していました。


「過去30年の経済成長状態」の時間軸では、ドイツを見習うべきでしょう。


 


しかし、「今の経済成長状態」の時間軸で見ますと、ドイツはエネルギーをロシアに依存しており、ウクライナ戦争によりロシアの化石燃料を輸入できなくなりました。


また、原発の推進を停止してしまったため、エネルギー確保が困難になり、エネルギー価格が高騰して高インフレによる経済のマイナス成長で苦しんでいる状況です。


対する日本は、原発再稼働を決定し、エネルギーミックス政策によりロシアにそれほど依存していないため、既にエネルギー価格の高騰は終了しています。


アベノミクスにより、円ベースGDPは順調に成長路線に入っています。


「今の経済成長状態」では、ドイツは反面教師です。


 


多くの報道機関は、過去と現在の時間軸を区別していませんので、比較の仕方が不適切になっています。「今GDPが抜かされたから、今のドイツを見習え」という報道になっていますが、これは不適切です。


見習うなら過去の経済政策を見習うべきであり、今のドイツは見習ってはいけません。


 


実質GDPの評価の仕方も問題がある


報道機関の内閣府GDP統計の評価の仕方も、私は納得ができません。


報道機関はエネルギーと生鮮食品のコストプッシュインフレの影響を正しく読んでいないと思います。


これは説明が長くなるので、別の記事で書きたいと思います。


ここでは省力します。


 


もう少し真面目に経済を報道して欲しい


昔から思っていましたか、報道機関は経済の評価の仕方が見当違いな事が多く、もう少しリフレ派経済学者やエコノミストのコメントや記事を見るなどして、適切な経済報道をする努力をして欲しいと思います。


アベノミクスがリフレ派の経済学を採用した経済政策なのは、明白であり、アベノミクスがGDPの成長と雇用の大幅な増加を生み出したのは事実です。


よって、経済報道をするなら、リフレ派経済学者やエコノミストの監督を受けて、報道すべきでしょう。


もうアベノミクスが始まってから10年も経つのに、いつになったら経済を学ぶのでしょうか。


もう少し真面目に経済報道を行ってください。


報道機関の経済報道を見る度、呆れて開いた口が塞がりません。

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