GDP統計7月~9月期の一次速報の報道について思うところ

時事

内閣府GDP速報


11月15日に内閣府よりGDPの一次速報が発表されました。


 


内閣府 – GD統計表一覧P(2023年7-9月期 1次速報値)


 


報道機関の報道内容


これについて各報道機関は、以下のように報道しています。


 


NHK – 7~9月のGDP 年率-2.1% 3期ぶりマイナス 食料品消費減などで


 


<NHKの引用>


主な要因は、GDPの半分以上を占める「個人消費」が振るわなかったことです。


 


東京新聞 – 7~9月GDP、年率2・1%減 3期ぶりマイナス、個人消費不振


 


<東京新聞の引用>


物価高を受けた個人消費の不振に加え、企業の設備投資も落ち込み、コロナ禍からの景気回復に急ブレーキがかかった


 


ロイター  実質GDP7─9月期は3期ぶりマイナス成長、賃金低迷が消費を圧迫


 


<ロイターの引用>


賃金の伸びが物価上昇に追いついていないことが消費を圧迫するなど、内需が力強さを欠いた


 


TBS NEWS DIG – 【速報】7-9月期GDP年率で2.1%減 3四半期ぶりのマイナス成長…歴史的な物価上昇や実質賃金の減少でGDPの6割近く占める個人消費が2期連続マイナス


 


<TBS NEWS DIG の引用>


食料品を中心に物価高が続いている影響でGDPの6割近くを占める「個人消費」が落ち込んだことに加え、企業の「設備投資」も減少したことなどが主な要因です。


 


産経新聞 – GDPマイナス 民間主導で内需牽引せよ


 


<j産経新聞の引用>


個人消費や設備投資などの内需が盛り上がらず、昨年10~12月期以来、3四半期ぶりのマイナス成長である。


 


日経新聞 – GDP、7?9月年率2.1%減 3四半期ぶりマイナス成長


 


<日経新聞の引用>


内需に関連する項目で落ち込みが目立つ。GDPの過半を占める個人消費は前期比0.0%減と2四半期連続のマイナスだった。自動車販売の減少が押し下げ要因となった。


<中略>


民間在庫変動の寄与度は0.3ポイントのマイナスだった。車の輸出が堅調だったことから、車を中心に製品在庫が減った。


輸出は自動車がけん引して前期比0.5%増だった。2四半期連続のプラスを維持したものの、4?6月期の前期比3.9%プラスに比べて勢いを欠く。


 


以上のように、報道機関はGDP減少の主な要因を「民間消費の減少」と報道しています。


 


識者の注意啓発


GDP速報の内容と、報道機関の報道内容は、経済学者の方が数値の読み方について、注意を促しています。


GDPマイナス成長の要因として、報道機関は民間消費の低迷を主に強調していますが、実際のGDP統計を見ますと、大きく影響しているのは、第1に「民間在庫変動」、第2に「輸入増加」、第3に「民間設備投資の減少」で、民間消費の影響は僅かなものです。


また、民間在庫変動と民間設備投資の値は、一次速報では必要なデータが揃わない為、正確な集計結果は、12月8日公表の二次速報まで待たなければ、分からないそうです。


よって、報道機関の「主な要因は、GDPの半分以上を占める「個人消費」が振るわなかったことです」という報道は、GDP速報のデータを適切に報道しているとは、言えないようです。


 


私が、内閣府GDP速報を見たときも、大きく目立つ変動値は「民間在庫変動の減少」であり、どうして報道機関が「消費が低迷している」事を第1に説明するのか理解できないと、思いましたね。


 


飯塚 信夫(神奈川大学経済学部教授)さん - 民間需要は10四半期ぶりの前年同期比減少~2023年7~9月期のGDP1次速報


 


<飯近信夫さんの記事引用>


なお、12月8日に公表が予定されている改定値(2次速報)で、以上の実績値が変わる可能性にも注意してください。本日の日経夕刊で注目している民間設備投資や民間在庫は、12月初旬に公表される「法人企業統計季報」(財務省)の実績値が追加され再推計されます。


 


飯塚信雄さんと同様のことは、経済学者の飯田泰之さんも説明しています。


飯田泰之note – 2023年Q3GDP一次速報解題


 


本当はGDPの何が減少したのか


繰り返しになりますが、今回のGDP統計一次速報で、主に減少したのは、民間在庫変動と、輸入の増加による純輸出(輸出-輸入)です。


次に影響が大きいのは、民間企業設備投資で、民間消費の減少は僅かなものです。


 


先の識者の説明にあるように、民間在庫変動と民間企業設備投資の値は、一次速報では正確な集計ができませんので、正確な値は二次速報の公表まで分かりません。


この二つの影響が非常に大きいですので、極端に言ってしまえば、今回の一次速報では本当にGDPが減少したのかハッキリ分からないわけです。


7月から9月の四半期GDPは、明らかに資源インフレ(輸入インフレ)の影響がありますので、GDPが減少可能性は大きいですが、一次速報ほど減少していない可能性も少しはあります。


もう一つ、重要なのが輸入の増加による純輸出(輸出-輸入)の減少は、あきらかに資源インフレ(輸入インフレ)の影響ですので、国内要因ではないと言うことです。


 


少なくとも、一次速報の時点で、GDP減少を断定してしまうのは、避けた方が良いと思われます。


 


仮にGDPが減少したとしても、減少の主な要因は、民間在庫変動と民間企業設備投資になります。


 


民間在庫変動に関しては、先に引用した日経新聞の記事に「車の輸出が堅調だったことから、車を中心に製品在庫が減った」とあります。


在庫が減る原因は二つ考えられます。


企業の生産の減少と、販売の増加です。


日経の報道が正しいのなら、輸出増加により、企業が在庫を崩して販売を増加した事が、在庫減少の原因のようです。


それが原因なら、民間在庫変動の減少は良い結果です。


 


民間企業設備投資の減少は、同じ日経新聞の記事によると、半導体の流通阻害と、人手不足が主な原因のようで、半導体は海外要員であり国内景気とは関係なく、人手不足は「賃金引き上げ圧力」に繋がるので、むしろ良い兆候です。


 


民間消費が低迷しているのは、以前の4月から6月期の四半期GDPのときから同じで、今始まったことではありません。


岸田政権は、来年6月まで17兆円の財政出動を実施する事を閣議決定しており、民間消費低迷の対策は、政治的には既に対策済みです。(タイミングが遅いとは思いますが)


 


私が個人的に思うところでは、今回の7月9月期GDP一次速報は、報道機関が報道するような、悲観的内容ではないように見えます。


個人消費の低迷も含めて、その影響のほとんどは、資源インフレ(輸入インフレ)によるものであり、国内経済低迷によるものは僅かです。


 


個人消費は以下のような記事もあります。


MUFG – 2023年7~9月期のGDP(1次速報)結果~物価高の影響が大きく、マイナス成長に陥る~


<引用>


 内需のうち実質個人消費は前期比-0.04%と小幅ではあるが減少した。内訳を見ると、コロナ禍明け後の需要回復を受けて、宿泊・飲食サービス、旅客輸送、レジャーといった対面型サービスへの支出が増加し、サービスは同+0.2%と4四半期連続で増加した。一方、自動車の販売減などにより耐久財が同-3.3%と減少したほか、半耐久財(被服・身の回り品など)が同-0.5%、非耐久財(食料、エネルギー、日用品など)が同-0.1%とそれぞれ落ち込んだ。


 


7月と8月は、石油など資源インフレの影響が大きく、9月は猛暑による農作物の不作を原因とする食料インフレの影響が、個人消費低迷の原因のようですが、それ以外のサービスはインバウンドやペントアップの拡大の為か、少し増加しているようです。


 


資源インフレは政府の対策もあり、9月には収束しています。


食料インフレは、まだ継続していますが、次の農作物が出荷されれば収束します。


 


これらを総合して考えますと、それほど悪い状況とは、私には思えません。


 


非常に分かりにくいのは、確かではあります。


 


以上、個人的に気になった点について、書きました。

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