炎上する鈴木財務大臣の答弁
先日、岸田政権の新たな経済対策について記事に書きました。
この経済対策の内、「過去の税収増加分を国民に還元する」という名目で行われる所得税減税について、11月8日の衆議院で、立憲民主党の議員から鈴木財務大臣へ質問が行われました。
この質問に対する鈴木財務大臣の回答が報道され、世間で騒ぎになっています。
“過去の税収増 すでに支出 減税は国債発行額 増加に” 財務相
還元策の税収増、財務相「すでに使っている」 所得減税は国債頼みに
NHKの報道によれば、鈴木財務大臣は「過去の税収増は当初予算や補正予算の編成を通じて、政策的経費や国債の償還にすでに充てられている。仮に減税をしない場合と比べれば、国債の発行額が増加することになる」と回答したそうです。
この回答は、報道機関やテレビ番組などで、「減税の財源は既に使い切っていて、存在しない」と言うニュアンスで炎上しています。
見当違いの揚げ足取りにしか見えない
具体的な予算について考えてみましょう。
2020年の税収が60兆円強であり、2022年度税収71兆円と比べると11兆円の税収増加となります。
2023年度予算総額が114兆円強です。
鈴木財務大臣は、「過去の税収増は(中略)政策的経費や国債の償還にすでに充てられている」と説明していますが、これは当たり前の話とも言えます。
114兆円強の2023年度予算は、今年の4月から使い始めているのですから、既に半分ぐらいの60兆円程度は使っているでしょう。増収分の11兆円以上、予算を使用しています。
だから、増収分の金額相当の予算は既に使用しているわけです。
「過去の税収増は(中略)すでに充てられている」という言葉をこの会計的事実に当てはめるのは、かなり不適切だと思います。
「増収分以上の予算が使われている」というのは事実ですが、それなら「増収分以上の予算がまだ使用されていない」というのも事実です。
予算の総額は114兆円強です。
増収分11兆円を、使用された予算に含めるのか、使用されていない予算に含めるかに、意味はありません。
また、「仮に減税をしない場合と比べれば、国債の発行額が増加することになる」と説明していますが、減税は補正予算による財政出動ですので、本予算の赤字国債とは予算枠が異なります。
本来、臨時予算である補正予算の財源が国債になるのは当たり前であり、これ自体は税収増加とは関係ない話です。
また、補正予算は本予算ではありませんので、本予算の赤字国債発行とは関係ありません。
経済対策の目的は、内閣府の需給ギャップを+2%から3%程度まで押し上げて、長期的安定的インフレ目標2%を達成する為に行われます。
(内閣府の需給ギャップの潜在供給能力は最大値ではなく、普通値が使用されている為、最大値より2%から3%ほど小さい潜在供給能力で算出されます。よって今の需給ギャップは2%から3%ほど上振れしています。つまり本当の需給ギャップはマイナス値です)
以前の記事でも説明しましたが、長期的安定的インフレ目標2%を達成しますと、GDP増加による税収増加で財政均衡する可能性が高いです。
今の政府が目指しているのは、GDP増加による税収増加です。
おそらく安部派の政治家や、内閣の閣僚など、その事は了解事項だと思います。
「税収増加分を国民へ還元する」という言葉に厳密な意味は無いのです。重要なのは総需要の2%から3%の増加です。
財務省の原稿答弁と思われる鈴木財務大臣の説明は、減税政策への「揚げ足取り」としか思えません。
岸田政権に対する財務省の反発が感じられる
以前、与党内部で、財務省を中心とした緊縮財政派と、安倍派を中心とした積極財政派の対立がある事を記事に書きました。
昨年、防衛費増額の財源として法人税増税を主張していた時の岸田総理は、やや財務省拠りだったかも知れませんが、その後だんだん積極財政派に近い考え方になってきて、22年度税収が71兆円に達し、大幅な税収増加が確定したとき、完全に積極財政派になったと考えています。
「税収増額分を国民に還元する」という言葉からも、その事が認識できます。
今の税収増加率から考えても、25年か26年には財政均衡するのは確実と考えられます。
岸田総理や閣僚と安倍派もそのように考えていると思います。
だから、17兆円の経済対策を実施するのです。
おそらく、この経済対策で(ディマンドプルの)インフレ目標2%が達成出来ると思います。
そして税収増加により財政均衡するでしょう。
同時に、最近の岸田総理は財務省の意見にあまり耳を傾けているようには見えません。
財務省の影響下にある新聞社や財界人や政府税調などは、うるさいぐらいに消費税増税や財政赤字の危機を主張するようになりました。
おそらく財務省が働きかけているのでしょう。
堂々と「財務官僚から話を聞いた」と説明する財界人の方もいました。
これらの様子を見る限り、政権内部で、財務省と岸田総理を含む積極財政派が、財政政策を巡り対立している様子が窺えます。
今回の鈴木財務大臣の答弁は、その対立の一つとして、財務省が仕掛けた政権への反発でしょう。
支持率低迷に悩む岸田政権に「減税の財源は存在しない」と国民に印象づけて、さらに支持率の低下を促しているのだと思います。
先に説明したように、鈴木財務大臣の答弁は、完全に意味の無い「屁理屈」であり、真面目に取り上げる価値のない説明であります。
報道を見て分かるように、野党や左翼陣営など、岸田政権を良く思っていない勢力に批判の材料を与えています。
マクロ経済や財政の解る人なら、鈴木財務大臣の答弁は無意味な答弁であることが、分かっているのですが、報道機関は経済が分かっていませんので、簡単に乗せられてしまいます。
「どうして日本の報道機関は、こんなに経済音痴なのか」と、見ていて情けなくなります。
今回の答弁は、財務省が岸田政権を引きずり下ろそうと、具体的な行動に出た実例なので、今後も同じような事が、行われる事が予想されます。
財務省の動きは注意して観察する必要がありそうです。
財務省がなぜ、このような造反行為をするのか、という点に関しては、また別の記事で解説したいと思います。
過去の記事で、ある程度説明しているのですが、その記事は記事が長すぎて読みにくいと思いますので、改めて書き直します。