自民党内部の積極財政派と財政再建派の対立

時事

前の記事で、6月16日に閣議決定された「骨太の方針2023」についての感想を述べさせて頂きました。

骨太の方針2023を読んだ感想

これに関連する報道がいくつか出てきたので、それを踏まえて、積極財政派と財政再建派の対立について、考えてみたいと思います。

財政再建派の危機感

先日の6月21日に読売新聞で政府税制調査会の中期答申の原案の内容が明らかになったという報道がありました。

政府税調、増税先送りに警鐘…答申原案「十分な税収確保」強調

読売新聞の記事引用

財政赤字が続く中、現在の歳出を賄うのに十分な税収を確保する「租税の十分性」を強調している。少子化対策の財源確保で増税論を封印した岸田政権に「必要な租税負担を社会全体で分かち合わなければならない」と説き、一石を投じる内容だ。

 

政府税制調査会とは、以前から財政再建を最優先に捉え、国全体の経済活動には無頓着な、財務省の影響の強い諮問機関と言われています。

報道では、中期答申の中で「日本財政は先進国で最も厳しく、租税負担が不十分だ」「所得税上げろ」「消費税上げろ」「赤字国債発行するな」「様々な特別減税措置は廃止しろ」と主張しています。

これまで財務省とその影響下にある政治家と、報道機関が繰り返し主張してきた内容と同じです。

報道の通りなら、この主張には経済政策としての合理性はありません。

このブログで解説してきたように、税収の財源はGDPであり、税収を増やすなら、GDPが増える政策を実施すべきです。

GDPが増えれば税収は増えるので、インフレ目標を達成していない現状では、需要拡大のために、政府支出を拡大すべき局面であり、増税どころか減税すべき状況にあります。

税収が十分か確認するなら、インフレ目標達成後の税収を確認してから考えるべきです。

GDP増加の3倍から4倍の速度で税収が伸びているのですから、税収を確保するなら増税ではなくGDP増加策を実施すべきです。

昨日も「税収過去最高更新へ」という報道が行われたばかりです。

22年度税収、過去最高更新へ 初の70兆円台も、防衛増税に影響?

マクロ経済政策的には、インフレ目標達成までは政府支出が拡大して需要拡大を図ることが、適切です。需要拡大すればGDPは増え、税収も増えます。

税率を増やせば消費が低迷して、GDPが減り、税収も減ります。

政府税調の答申は、タイミングから考えて、「骨太の方針2023」の中で、少子化対策や防衛費増額の財源が明確にされなかったことに対する、財政上の危機を感じた財務省に代表される緊縮財政派・財政再建派の政治的圧力の側面が強い発表だと思います。

岸田政権は、当初は防衛費増額の際、1兆円ほど法人税を増税する必要があると主張し、反対する自民党安倍派と対立しました。

しかし、その後増税は決定することなく、財源に関しては、現状では明確にすることの無い形で、今回の「骨太の方針2023」が発表されました。

「骨太の方針2023」の中では、防衛費増額や少子化対策の財源を明確にすることなく、財政政策を実施することが明記されています。

この事が財務省と財政再建派の人々には、好ましく無かったのでしょう。その意志が反映されたのが今回の政府税調の答申というわけです。

これは財政政策におして岸田政権と財務省や財政再建派との間に、政治的対立がある証拠でもあります。

影響力を増す積極財政派

特命委員会の提言

6月9日に、自由民主党政務調査会の「防衛関係費の財源検討に関する特命委員会」が以下の岸田総理に提言を行いました。

以下は自民党のサイトから直接公開されている文書です。

1兆円規模の防衛財源追加確保を 特命委員会が岸田総理に提言

内容としては、要するに「増税に頼らずに防衛費増額の財源を確保しましょう」という事を岸田総理に直談判したものになります。

詳細は、

国有財産売却、コロナ対策予算の剰余金、外為特会と財政投融資、防衛省自衛隊による財源確保、60年償還ルール見直し、決算剰余活用、歳出改革

という内容が提案されています。

特に私が注目できるのが「60年償還ルール見直し」です。

この部分だけ引用してみます。

3 – 5.いわゆる60年償還ルール等

  いわゆる60年償還ルールに基づく国債償還財源の定率繰入れの見直しに 関する議論については、仮に当該ルールを見直した場合、一般会計から国債 整理基金特別会計への債務償還費の繰入れが減少する分、一般会計における 赤字国債発行額が減少するが、同特別会計における借換債の発行額が同額増 えることから、全体の国債発行額は変わらない。つまり新たな財源が生まれ るわけではないことについての理解は概ね共有された。

  その上で、同ルールについては、主要先進国において同種の仕組みがない こと、過去に11回定率繰入を停止したが市場の信認が損なわれる事態は生 じなかったこと、多くの格付会社が本ルールを廃止したとしても格付けに影 響はないとしていること等を理由に見直しを求める意見があった。

  これに対して、主要先進国において同ルールのような償還財源の確保に関 する特別の制度はないものの、財政規律維持に関する基準等を法律において 規定しており、国際比較に当たっては財政規律維持に関する枠組全体を見る 必要があるとの意見や、過去における定率繰入れの停止の際には、NTT株式 の売却収入等の別途の財源により公債償還は支障なく実施した上で、定率繰 入れを停止した分については特例公債の発行を減額するという財政健全化の 取組の中で行われたものであったとの意見があった。

  本特命委員会では、この定率繰入れの沿革について、あくまで公債政策に 関する政府の節度ある姿勢を明示するために導入されたものであり、文字ど

おりの減債、すなわち国債発行残高の減少を目指すものではなかったことを 確認した。また、同ルールを見直す場合、新たな財源は生じないにしても、 政府がこれまで公式資料等で示してきたような、歳入と歳出の差が年々拡大 していくとする姿(いわゆる「ワニのロ」)の見え方が変わる、すなわちワニ のロが今の見せ方よりも閉じる方向である、との認識を共有した。同ルール のあり方については引き続き幅広く議論を重ねていくべきであるが、政府は、 このような制度の趣旨や沿革の丁寧な説明に努めるべきであり、今後の財政 運営を緊縮的にせざるを得ないと受け止められることがないよう配慮すべき である。

 

特命委員会と財務省の議論の経緯を確認し、ここに記録することを目指して記載されていることが認識できます。

主要先進国に国債償還費と同様の制度は存在しないことが、改めて確認されています。

また、文章の通りなら、国債償還費は減債を目的としたものでは無く、あくまで「公債政策に関する政府の節度有る姿勢を明示するため」の制度であることが確認されています。

つまり、減債制度は必ずしも必要無いということになります。

また、財務省の典型的な説明である「ワニの口」のように政府債務が膨らんでいく表現は、間違いであり、現実には量的緩和により「ワニの口は閉じる方向」であることを確認しています。

これまでの財務省の誤った説明を否定し念を押すような内容です。

国債償還費見直しの議論は、今後も継続するようですので、今後の展開に期待したいと思います。

岸田総理の立ち位置

この記事で紹介した、報道や官邸や自民党の公式資料を読みますと、政府内部の財政再建派や積極財政派の中での、岸田総理の立ち位置がだいたい見えてきます。

防衛費増額を発表したとき、岸田総理は法人税増税で、防衛費増額の財源の一部を賄うと明言しました。

この説明は自民党安倍派の反発が買い、一時は党が分裂するのではないかと感じられるぐらいの党内対立を生みました。

その後、具体的な増税案は保留され2023年度の間に議論して決めることになりました。

この時点での岸田総理はやや財務省依り財政論を持っていたように見えます。

しかし、現在の「骨太の方針2023」を見る限り、増税ありきの財源論は姿を消し、現時点では財源論を明確にしない方針を明言しています。

「骨太の方針2023」の内容は、積極財政論ではありませんが、緊縮財政論でもありません。

その証拠に、この記事の冒頭で紹介した、「政府税制調査会の中期答申」という財務省の影響下にある組織から、岸田政権の財政政策への激しい批判の声が上がっています。

もちろん、世間ではリフレ派など積極財政派の識者からも「政府投資が無い、細かい増税ばかり多い」と批判されています。

つまり、岸田政権は財政再建派(緊縮財政派)からも、積極財政派からも、批判されていることになります。

これは、岸田政権が両者の中立的位置に存在している証拠になると思います。

自民党内部では、積極財政派と財政再建派の対立が、政治的に均衡している状態なのだと推測できます。

私は岸田総理はあまり経済を理解していない方だと思っています。

岸田総理には積極財政派と財政再建派のどちらが正しいのか、判断が付かないのではないでしょうか。

だから、両者の話を公平に聞いて、その議論の均衡点を「骨太の方針」に反映させたのではないかと思われます。

元々、防衛費増額の段階では、法人税増税で決まりそうだった状況が、今は積極財政派と財政再建派の均衡状態にまで、シフトしたわけです。

少なくとも、政治の流れは積極財政派へと流れているように見えます。

私としては、特命委員会と安部派を中心とした、自民党積極財政派の今後の活動に期待したいと思います。

まだまだ、増税による経済失速のリスクは存在しますが、積極財政派への良い風も吹いています。

必ずしも悲観的な状況ではないと、私は認識します。

以上、個人的感想でした。

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