骨太の方針2023を読んだ感想

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令和5年6月16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023」いわゆる「骨太の方針2023」が閣議決定されました。

経済財政運営と改革の基本方針2023

これは、内閣の経済政策の指針になる条文で、法律ではないため、法案のように国会に提出されることはありません。

骨太の方針2023の内容のマクロ経済政策に関する部分だけ、引用して、個人的感想を述べたいと思います。

金融政策だけの片肺飛行

「第1章 マクロ経済運営の基本的考え方」を読みますと、

「四半世紀にわたり、我が国のマクロ経済政策運営では、常にデフレとの闘いがその中心にあった。」

「国内ではデフレによる需要停滞と新興国とのコスト競争を背景に企業はコスト削減を優先せざるを得ず」

この部分で、国内経済がデフレ経済であり、今後もデフレ対策が必要であることが、明記されているのは、取りあえず「良い」と思います。

しかし、その後の文章で、経済対策として「賃金や設備・研究開発投資の拡大」「コストの適切な転嫁」「構造的賃上げ」「リ・スキリング」によりデフレ脱却と経済成長を目指しているようで、肝心な「需要拡大政策」に関する説明が存在しません。

現在の日本はGDPギャップがマイナス10兆円前後のデフレ経済の状態であるのは、明白です。

GDPデフレーターもまだ1.3程度で不十分です。

消費者物価指数だけ海外資源高の影響で高くなっていますが、これはコストプッシュインフレであり、日銀とアベノミクスの目指すディマンドプルインフレによる2%目標は達成されていません。

GDPギャップがプラスになり、GDPデフレーターも2.0を超える水準が、長期的安定的に継続するマクロ経済状況にならなければ、インフレ目標を達成したとは言えません。

実際、日銀のアナウンスでも、「量的緩和は継続する方針」と、発表されています。

この冒頭の文章を読んで特に気になったのが、「賢い財政支出(ワイズスペンディング)の徹底、政策の将来にわたる効果を見据えた動的思考の活用等の取組があいまって、政府の財政赤字が改善していく姿を目指す」というように、やたらに「財政赤字」や「財政健全化」にばかりこだわり、「需要不足」を重要視しているように見えないところです。

「経済あっての財政であり、経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組むとの

考え方の下、財政への信認を確保していく」と書いていますから、経済を犠牲にしてまで財政健全化を目指すわけではないでしょうが、本来なら需要拡大の為に国債発行してでも、需要不足を埋めて、GDPギャップをプラス10兆円超える水準まで持ち込まなければなりませんのに、その意志が無いように見えるのは、正直残念であります。

ただ、岸田総理の説明にもありましたが「少子化対策で国民に追加負担を求めることはない」と言っていましたし、この「骨太の方針」にも「防衛費増額の財源のための増税」の話は登場しません。

「骨太の方針」を読む限り、大規模な増税をする気は無さそうです。

つまり、大規模な財政出動も、大規模な増税も、行わない方針であると思われます。

植田日銀総裁は、量的緩和路線を継続する意志が固いようですし、需給ギャップ(GDPギャップ)の値を重要視していることも、先の日銀の広報で読み取れます。

日銀は、金融緩和を継続しますが、政府は財政出動を拡大しないという、金融政策と財政政策の足並みが揃わない「金融政策だけの片肺飛行」になるわけです。

本来、デフレ対策なら「金融緩和と財政出動」、インフレ抑制なら「金融引き締めと財政引き締め」というように、金融政策と財政政策の足並みは揃っていなければならないのですが、残念ながら日本政府の場合は、そのような認識には無いようです。

正直、官邸がマクロ経済政策を理解できていないのではないか、と疑ってしまいます。

よく分からない「構造的賃上げ」

骨太の方針を読みますと、賃上げの推進に対する意欲が伝わってきます。

しかし、その手段は「民間主導の投資拡大」に依存する方法論になっているように見えます。

「構造的賃上げ」という言葉が出てきますが、正直この言葉の意味が分かりません。

労働者の賃金上昇は、労働者の需要が供給を上回ることで、起きます。

マクロな前提で言えば、有効需要が潜在供給能力を上回っているときに、需給ギャップがプラスになり、労働者の賃金上昇が起きます。

つまり、労働者の賃金上昇を起こしたければ、需要を拡大して需給ギャップがプラスになるように、誘導する必要があります。

GDPは需要の総量ですので、「GDPを増やす」とは「需要を増やす」ことを意味します。

GDP = 政府支出 + 民間投資 + 民間消費 + 輸出 - 輸入

ですから、需要不足のとき、政府がやるべきは「政府支出」の拡大です。

「政府支出」の拡大をして、需給ギャップがプラスになれば、一般物価と共に賃金上昇が起きます。

一度、一般物価と賃金の上昇が起きれば、民間投資と民間消費も増加しますから、あとは政府支出を減らしても経済成長は継続します。

つまり、賃金上昇を誘いたければ、「政府支出」の拡大すべきなのですが、その概念は無さそうです。

これは、残念な点です。

単年度会計の見直しはするか

逆に、期待できる点もあります。

民間投資を促す、様々な施策は、個々の政策としては、良い物ばかりです。

悪いのはマクロな需要拡大の概念が無い点であり、ミクロな施策は悪くないと思います。

もう一つ、良い意味で注目できる点は、

「予算の単年度主義の弊害是正に取り組む。」

「多年度にわたる計画的な投資については財源も一体的に検討し歳出と歳入を多年度でバランスさせる」

「厳しい財政状況の中、多年度にわたる重要政策課題に取り組むための財源を確保するため、現行制度の効率性を最大限高める」

という単年度会計から他年度会計へ一部の会計を見直すのではないかと思わせる部分です。

岸田総理の総裁選公約に「単年度会計の見直し」が有ったのは、記憶に新しいところであります。

この公約は握りつぶされてしまったと思っていました。

しかし、今回の骨太の方針に、それを匂わせる一文が出てきたことは、多少期待しても良いのかもしれないと思っています。

デフレ脱却まで明確に何年かかるか分かりませんが、10年はかからないでしょう。

5年程度なら、5年単位の会計で収支が合えば、最初に財政出動を拡大することは可能になります。10年単位ならもっと良いです。

「予算の単年度主義の弊害是正に取り組む。」という言葉の真意は分かりませんが、個人的には少し期待しています。

ゆっくりデフレ脱却できると思う

「骨太の方針2023」を読む限り、ゆっくりとですが、デフレ脱却は実現すると思います。

日銀はインフレ目標の長期的安定的2%達成まで、金融緩和を継続すると何度も明言しています。

政府も本来なら財政出動で足並みを揃えて、政府支出の拡大を実施しなければならないのですが、それは行わないようです。

しかし、大規模な増税も行なわないようですので、政府のマクロ経済政策は「可も無く不可も無く」と言ったところでしょうか。

防衛費と少子化対策の政府支出は拡大することになりますので、一応「政府支出拡大」になるのかも知れません。

他の予算を削ったりしなければ、政府支出の拡大になりますが、アチコチの予算を削り、相続税や各種控除撤廃など細かい増税をいくつもやっていますので、その辺はあまり期待していません。

一応、緊縮財政ではないのと、日銀の金融緩和の継続がありますので、時間はかかると思いますが、デフレ脱却は実現すると思います。

そういう意味で、一応「一安心」できる内容の「骨太の方針2023」でありました。

感想は終わりです。

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